グラッド=うれしい
吹雪が止み、メディおばあさんの家から出ると雪がしんしんと穏やかに降っている。 「犬は喜び庭駆け回り猫はこたつで丸くなる・・・♪」 はククールだけが知らないのかと思ったら、見事に仲間全員知らなかった。そういえば自分は違う世界に来ていることをふと思い出すであった。
「気をつけてねぇ。オークニスまでは結構距離があるから・・・」 メディお婆さんが心配そうに旅の続きに出ようとしているたちの後ろについて家から出てくる。ちなみにオークニスというのは、メディお婆さんの家の先にある町のことだ。 「本当のありがとうございました。すっごく助かりましたよ!ヌーク草のおかげで暖かいですし」 にっこりと笑ったメディお婆さんはその直後、何かを思い出したかのように小さく手を叩いた。 「あ、そういえば・・・。町に行くなら私の息子のグラッドにこれを渡してくれませんかねぇ」 メディお婆さんは自分のポケットを探ると、ヌーク草が大量に入った白い袋をに託した。
「私の息子も町で私と同じ薬師の仕事をしているんですよ。実は息子にずっと一緒に町で住もうって言われてるんですけど、私はこの家に昔からある遺跡を守る役目がありますから・・・。」 メディお婆さんは少し寂しそうな表情で話し始める。息子のことが本当に大切なのだろう。 「・・・わかりました。しっかり渡しますね」 はメディお婆さんを安心させるように優しい笑顔でそう言うと、メディお婆さんは安心したようにほっと胸を撫で下ろした。
「ほんとメディさんには助かったわね!」 ゼシカが嬉しそうに雪をかきわけるように歩きながら言うとみんなは頷く。 「でもどうなんだろうね・・・。メディさんは、町で住んだほうがいいのかあのままでいいのか・・・」 ククールが半分諦めたようにの問いかけに答えると、はそうだけど、と言う。
「・・・・・・・・・」 皆が雪国なんて始めてだとかヌーク草はすごいやら色々言っているが、は一人考えていた。なんとなく、なんとなくだけどメディお婆さんは特別な存在なのかもしれない。
「・・・!ねぇ待ってみんな!レオパルドはこっちの方向に来たんだったよね!?」 ゼシカが少し呆れたように言うとはもう一度考えた。 「(もしメディさんが賢者の末裔だったらどうしよう・・・大丈夫だよね・・・?)」 大丈夫だ、と思いながらも心の中では不安だったは、心を落ち着かせようとみんなの話に入っていった。
「すごい構造の町でがすなー。こりゃ迷うでがすよ」 がオークニスの町の構造の話をするとヤンガスはさすが兄貴でがすとかなんとか言っている。
オークニスの町はが言うように、外に施設はなかった。基本地下に住宅があり、地上には建物の中に武器屋や教会、宿屋などがあり、すべて廊下で繋がっていた。
とりあえずグラッドさんがいる場所を探すことにした。 「えーっとグラッドさんの家グラッドさんの家・・・」 あれー?と疑問符を頭の上に浮かべたに、ゼシカが激しく突っ込んだ。
「まあこんなところで探してても手がかりがなきゃわかんないし、人に聞こうよ」 ヤンガスが頭の上で手を叩く。があんまり手が届かないので「パン!」といい音が鳴らずに「カスッ」という歯切れの悪い音が鳴っている。 「・・・なんか気持ち悪いから手をちゃんと伸ばしてから叩いてくれヤンガス」 ククールがヤンガスにアドバイスをすると、ヤンガスは信じきって手を勢いよく振り回す。後ろにいた旅の商人か誰かを手でしばいていたが大丈夫だろうか。
「え?グラッドさん?」 地下住宅街に入り込み、そこにいた人にはグラッドさんの家がどこなのかを聞いてみた。 「グラッドさんの家ならここだよ」 地下住宅街にいた人のすぐ後ろにあったドアがグラッドさんの家だった。確かに聞く必要はいらない。突っ込んだの気持ちがよくわかっただった。
「あ、でもグラッドさんは今、家にいないよ」 首を傾げるに、その人はちょっと目を細めた。 「えー、でもなぁ・・・。グラッドさんは有名な薬師だし、居場所を教えるのは何かもったいないし・・・」 絶対変な人だ、とその場にいた仲間たちは思った。
「・・・ま、この通り頭下げるから教えてくれよ」 と言いつつも1ミリも頭を下げないククール。 「・・・しょうがないですね。グラッドさんならこの町から北西にある薬草園の洞窟にいますよ」 頭下げないククールに承諾するその人。一体なんなんだこやつは。まぁ教えてもらったからもう用はないだろう。
たちが薬草園の洞窟に向かうためにその人の前から去ると、その人はポツリと呟いた。
「・・・でももう、グラッドさん何日も帰ってこないけど大丈夫かなぁ」
言われたとおり薬草園の洞窟についた一行。雪が溶けることない気温の中を歩くのは、ヌーク草の効果があっても死にそうだった。雪に足を取られるし、靴の中などに雪が入り込んだりして足から体温を取られていた。
「洞窟の中なんだからちょっとくらい暖かいのかと思ってた私がバカだったわ。普通に寒いわ」 ゼシカとククールが身を震わせている横でヤンガスは地面の氷に足を滑らせている。 「大丈夫?危険だから気をつけてね」 もヤンガス同様に足を震わせながらも凍った地面の上を歩いているが、時々滑って転びそうになる。
「おっと、大丈夫かよ」 ククールが後ろにこけそうなを片手で受け止めた。 「うわああ!!私体重ものすごいのに・・・!ククールの腕が折れる!!」 ゆっくり傾いたの体を起こしてやると、ククールはちょっと照れたように突っ込む。はありがとうと言って俯くと、がその光景を見てちょっと嫉妬していたりしたのだった。
「わわっ!こっちはダメだ!」 天井に滴る雫が固まり、大きな氷柱を作ったこの洞窟は、歩くたびに上から氷柱が落ちてくる。氷柱は先が尖がっているために、もしこれが体に刺さればかなり危険だ。 危険ありふれた洞窟である。 きけありである。 いや略すなよ。 危険アリである。 なんか某映画のタイトルみたいに言うなよ、と思った方も多いでしょう・・・。
「・・・あれ?」 たちが洞窟を歩いていると、はすでに氷柱が地面に刺さっている場所を見つけた。 「(誰か歩いたのかな?氷柱はなんか誰かが歩いた場所に刺さってくるし・・・)」 不思議に思ったが、氷柱の隙間を覗くと、青いコートを着た黒髪の男の人を見つけた。
「待ってみんな!誰かいるよココ!!」 が皆を呼び寄せると、皆もびっくりしたような顔で倒れている人を見た。
必死に男の人が倒れている場所までいけないか探したが、氷柱が邪魔したり高い段差があったりしてどこからも入れそうにない。 「たぶんこの人グラッドさんだよね・・・。氷柱が邪魔で抜け出すこと出来なかったのかな・・・。この隙間から入れたらいいのに・・・!」 そう言っては歯痒そうに氷柱と氷柱の隙間を見たとき、思い出したものがあった。
トーポ、だ。 トーポならこの隙間を歩いてどうにかしてくれるかもしれない。前に一度ゼシカの部屋をトーポ一人で散策させ、ゼシカが自殺するなんてほざいた手紙を持ってくることも出来たし。 「!トーポを氷柱の隙間に入れてみたら?」 そう言うとは右ポケットからいつも顔を覗かせているトーポを手の平にのせ、そっと地面に放した。 「トーポ、グラッドさんの元までいけるようにしてくれないかな」 トーポが了解したとでも言うように鳴くと、氷柱の隙間に入っていった。
トーポが入ってからしばらくした。
ドスンドスン!!うっひゃぁ。 氷柱の落ちる音がして、みんなびっくりする声をあげる。トーポが氷柱を落としたのかもしれない。
「あ!」 音のした方へ行ってみると、トーポが高い段差との間くらいの高さの氷柱を落としてくれ階段のようになっていた。
「やっぱりトーポはすげぇやつだな・・・マジで鼠なのか、こいつ」 思い出したたちは氷柱の階段を滑らないようにそっと降り、グラッドさんに駆け寄った。トーポも急いで前転しながらついて来る。目回らないのかソレは。
「グラッドさん!!」 グラッドさんの返事はない。死んだような目をしているが、体温はまだあるので死んではいないだろう。
「グラッドさん・・・ベホマ!!」 が回復呪文を唱えると、グラッドさんは寝起きのように一度体を痙攣させると、意識を取り戻した。
「いやぁ・・・氷柱に挟まれて出れなくなってしまって・・・本当にありがとうございます・・・」 体を震わせながらグラッドさんはそう言う。メディお婆さんと顔は全く似ていないが、名前に反応したりするところ、本当にグラッドさんのようだ。 「あ、あの・・・ヌーク草持ってませんかね?寒くて寒くて・・・」 がメディお婆さんに託された白い袋を渡した。
「ああ、これは母さんからか・・・。まだ草のままだな。これは溶かさないと辛いんだが・・・しょうがない!えい!」 グラッドさんはヌーク草を草のまま一気に飲み込んだ。その瞬間。
「ぬはあああああああああああああああああああああああああああああ!!!!」 まるで戦闘中にチーズを食わせたトーポのように、グラッドさんは口から火を吐き出した。この人実はすごい大道芸人なのかもしれない・・・(いや薬師ですけど)。
「か、辛い・・・!あぁ、でもこれで汗をかくほど体温が上昇しましたよ。本当にありがとうございます。あなたたちが来てくれなかったら私はもう死んでたと思います・・・」 少し泣きそうになるグラッドさんを見ると、そこにいた一同はちょっとこの人は間抜けなんだなと思った。
「あの、重ね重ね申し訳ないですが僕を出口まで連れて行ってくれないですかね?」 ククールがちょっと嫌そうな顔をした。するとそれをすかさず見ていたグラッドさんはこう言う。 「あなたは氷よりも冷たいお人だな・・・」 うるせぇな!!!!ククールは激しくそう思った。
「本当にありがとうございます。みんな心配してるだろうな・・・。薬を提供するのは僕しかいないから。母さんの家は遠いし・・・」 グラッドさんは町のみんなを心配しているようだった。すると。
「グルルルルル・・・」 狼の唸る声が聞こえ、周りを見渡す。洞窟から出てきたばかりで気を緩めていたたちは、驚いて戦闘体勢に入るのを忘れていた。
「殺せ・・・殺すのだ・・・」 は声が聞こえたが、以外の人には聞こえていないようだった。
「うわぁ!」 狼たちはグラッドさんに集中して襲い掛かる。それを必死に食い止めようとやゼシカが急いで武器を構えたときだった。
「違う・・・こいつは違う・・・!」 また同じ声が聞こえた。みんなの顔を見ると、どうやら今度は聞こえているとようだ。
「こいつは違う・・・。確かに賢者の末裔の血の匂いがするが違う・・・!!」 声は何だか悔しそうにしている。たちはどこから声がするのか周りを見渡すが、声の主と思われる人は誰もいない。しかしその声を聞いた狼たちは耳を済ますように、グラッドさんへの攻撃を止める。
「こいつの祖先にあたってみろ。そいつが賢者の末裔かもしれない・・・」 その言葉を聞いた瞬間、狼たちはたちのいた場所から走り去っていく。
「な、何だったんだ・・・?賢者の末裔?私の・・・祖先!?」 グラッドさんは何かを思い出したように目を見開いた。
「悪い予感がする・・・!そういえば随分前に、母さんにうちの家系は賢者の子孫だったと聞いたことがある!」 グラッドさんはそう言うと、急いでオークニスに向かって走りだした。 「待ってくださいグラッドさん!」 そう言ってグラッドさんは早い足を使ってあっという間に姿を消した。
「・・・グラッドさんの言うことをここは聞きましょう。メディさんが危ないわ!」 ゼシカは冷や汗を額に浮かべていた。 「私、さっきのあの声・・・杖に乗っ取られていたときに何回も聞いたのよ。あれは間違いなく暗黒神ラプソーンの声だわ。もしかしたら・・・いえ、絶対!絶対にこの近くにレオパルドがいるのよ!!」 ゼシカがそう言った瞬間、みんなの脳裏にメディお婆さんの笑顔が映った。
「もう犠牲はだしたくないの。いいえ、出してはいけないわ。このままじゃ・・・このまま賢者の末裔の人が全て殺されてしまえば、暗黒神は復活してしまう。世界が滅びてしまうのよ!!」 涙を少しだけ目に浮かべたゼシカは、にメディお婆さんの家までルーラを頼んだ。 がルーラの詠唱を始めると、皆は急いでの腕を掴んだ。
「メディお婆さんの家へ・・・ルーラ!!」
みんな願っていた。どうかメディお婆さんが無事でいるように、と。
あとがき 「まったく、火を吐いたりするなんてものすごい鼠ね。」 的なこと言ってたんですよ。 ・・・あれ?私トーポの火を噴かせた覚えはないのに、君はいつ見たのかな? と。(おまっ 2009.05.14 UP |