雪国

 
「あの杖を持った瞬間、頭の中に誰かが話しかけてきたの・・・。
『私の名は暗黒神ラプソーンだ。その杖には私の魂が宿っている。どうか七賢者の末裔を殺し、私をこの世に蘇らせてくれ』
たしかこう言ってたわ・・・」
思いつめた顔ような顔で話をしてくれるゼシカを囲むようにして、皆はベッドや椅子に腰掛けたり柱に体を預けたりしていた。
「あの杖を持ったときは魔力がみなぎってくる気がして、嬉しいというか・・・気持ちがよかったの。でもすぐにいけないことだ
とわかったわ。だけど・・・もう自分の意思では声も出せなかったし体も動かせなかった。私が今までしてきた行動はラプソーン
が勝手に操っていたの・・・」
ひとつ涙を流したゼシカは、何かが切れたように色々思っていたことを吐き出した。
「私・・・私、人を殺すなんて最低だって・・・ずっと思ってたのに自分で止められなかった・・・!ただ賢者の末裔を世界から
探し出して殺せって、暗示をかけられて・・・私はずっと・・・。
だから
が声を掛けてくれたときは、すごくうれしかったの・・・」
涙を拭ったゼシカは、ひとつ深呼吸をすると真剣な目でみんなをみた。
「私は今までドルマゲスを倒して兄さんのカタキを討とうって思ってたけど・・・ドルマゲスもきっと私と同じようにラプソーン
に操られてたんだと思うの。だから私は、本当に兄さんのカタキを討つのが終わるのは、ラプソーンを倒したときだわ。私はそれ
まで旅を続けようと思うの。・・・みんなは・・・?どうするの?」
心配そうに尋ねてきたゼシカに、たちは一瞬顔を見合わせたがすぐに笑顔になった。
「もちろん、僕たちも続けるよ!これからも一緒に旅しようよ!世界を救おう。賢者の末裔の人たちを守ろう!」
「ありがとう・・・ありがとうみんな・・・」
ゼシカは嬉しそうに笑った。
 
 
 
 
「あれ・・・?そういえば杖・・・杖は!?」
「え?私たちゼシカのことでいっぱいいっぱいで・・・そういえばどこだろう?」
「ゼシカが結界で元に戻ったとき、杖、はじきとばされてたよな」
「海にでも落っこちたんじゃねぇでげすかね?」
そんな話をしていると、外から女の人の悲鳴が聞こえた。
「大変だわ・・・!チェルスさんが危ない!あの杖を持った人はチェルスさんを殺してしまうわ!」
「「「「ええ!?」」」」
急いで宿屋から出た一行は、声の聞こえた方向へと走っていった。
そこにいたのは頭巾を被った、いつもハワード邸を庭の外から覗いている女の人。
 
 
 
「どうしたんですか!?」
「チェルスくんが・・・チェルスくんが!!」
涙をたくさん流しているその女の人は、震える手で庭を指差した。
その光景は・・・驚くべきものだった。
チェルスは腹部から血をたくさん流し、痛そうに抑えて倒れていた。
「私見たの!屋根上から飛んできたレオパルドが口に杖をくわえてて・・・それでチェルスくんを!」
「!」
たちが驚いた表情をしていた。杖はレオパルドが持ってしまったのか・・・!
 
 
 
「チェルスさん!!!」
が門を飛び越え、チェルスへと駆け寄る。
「チェルスさん!大丈夫ですか!?今、回復魔法を・・・」
「いいんです、さん・・・」
が詠唱を始めるのを、チェルスはの口を抑えて止めさせる。
「どうして・・・っ」
「僕は・・・ハワードさんの下で働けて幸せでした・・・。それを最後に死ねるなん、て、光栄で・・・す・・・」
チェルスの瞳からは、太陽の光で煌めく涙。
本当にこの人の心は純粋なんだと、
は思った。
 
「僕・・・皆さんにも出会えてよかったです・・・。ありがとう・・・ござ・・・いまし・・・」
そう言って、チェルスは瞳をゆっくり閉じ、静かに息を引き取った。
「・・・!!チェルスさん!!チェルスさん!!」
はチェルスの倒れている体を揺さぶる。しかし一行に目を開けず、脈も止まっていた。
「だめです・・・!死んじゃだめです・・・チェルスさん・・・!!」
の涙が、チェルスの頬に何滴も零れた。
 
「なんじゃ?騒がしいの・・・チェルス!?」
屋敷から出てきたハワードは、チェルスの亡骸を見て駆け寄った。
「どうした!?なぜチェルスがこのような・・・!!」
「・・・私が呪われていたように、杖を持ってしまったレオパルドがチェルスを殺しました」
「何だって・・・おいチェルス!死んだなんてうそなんだろう!?チェルス!」
ゼシカがハワードに話をすると、ハワードは驚いた表情でチェルスをもう一度みた。
ひたすら声を荒げてチェルスの名を呼んだが、チェルスは既に死んでしまっている。
 
 
 
「・・・チェルス・・・安らかに眠るんじゃぞ・・・」
チェルスの亡骸を、ハワードは庭の草が生い茂る場所に埋めた。
「・・・墓石はワシが作っておこう。おぬしたちに話がある。部屋まで来てくれ・・・」
そう言ってハワードは屋敷へと入っていった。
 
「あんなオッサンでも、やっぱり部下が死んだら悲しいんだな・・・」
そりゃあんなドSな人でも心くらいはあるだろうからね
いつもならが言いそうなことを、代わりにが言う。
は皆の後ろで、赤く目を腫らして今にも泣きそうな顔をしていた。
 
 
 
 
「・・・私の先祖からの使命は、チェルスを・・・守ることだったのだ・・・」
ハワードはたちが部屋に来るなり、そんなことを話し出した。
それなら、どうして今までハワードはチェルスをいじめていたのか。
「わしはその使命のことをすっかり忘れておった。チェルスが死んだ今・・・思い出し・・・」
そう言うとハワードは声を上ずらせ、泣きそうになった。
「・・・・・・そなたたちにお願いする。レオパルドを殺してほしいんじゃ」
「え・・・?でもレオパルドは愛犬なんじゃ・・・」
「チェルスのカタキじゃ。ワシではもうあやつをどうすることもできん・・・」
下を俯くハワードを、は心配した。
 
「そちらの娘さんはどうやら魔法使いのタマゴのようじゃな」
「え?あ、はい」
ハワードはそう言うと何やら呪文を唱え始めた。その瞬間ゼシカの周りを明るい光が取り囲んだ。
「あ・・・」
「これでベギラゴンとマヒャドの呪文を唱えられるじゃろう。疑ってしまった詫びじゃ。・・・レオパルスを頼んだぞ」
の肩をポンと叩くと、はハワードに頷いた。「任せてください」と言って。
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
「何だか私、責任を感じちゃうわ・・・。私がチェルスさんを殺したのも同然だもんね・・・」
ハワードの家を出て、次の町へと向かう途中、ゼシカがそう言った。
「私があの遺跡で杖を拾わなければこんなことにならなかったんだもん。どうして私・・・」
ゼシカは頭を抱え込んだ。
 
「あ、ゼシカ!俺あの魔法のビキニ・・・「ごめん今そんな気分じゃないのよ」
ククールが場を盛り上げようと、前にに着させようとした魔法のビキニの話を持ち出したが、
あっさりと断られてしまった。
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
「おーーーーっ寒いのぅっ」
馬車をミーティアにこがせながら、トロデは身を縮こまらせてつぶやく。
みんなも同じように腕を組んで、少しでも寒いのを阻止しようとした。
今ここは雪国だった。吹雪が酷く、今にも遭難してしまいそうだ。なんとなく眠い気もするとアルシェは思った。
 
「ったく、何でわしらがこんな寒い雪国に来なければいかんのじゃ。それもこれもドルマゲスがわが国の杖を・・・ブツブツ」
「おっさんうるせえでげすなー。みんな寒いんでげすよ。ちったあ黙るでがす!」
寒いので気が立っている2人は喧嘩し始めた。あとの人たちが慌てて喧嘩を止めようと仲裁するが全く聞かない。
 
「もうええわい!わしは先いっとるぞ!!いくぞ、姫」
そういうとミーティアはみんなを見て「ごめんなさい」とでもいうような瞳で見つめてきた。
そしてトロデの指示に従って歩きだす。
 
 
「もー、こんな寒いとこなんかで喧嘩なんかしなくってもいいのに・・・」
「しょうがねぇでがすよ。あのおっさんが悪いんでげすよ」
ヤンガスがゼシカにそう言われぶつくさ言うと、ゼシカがため息をつく。
 
「まぁまぁ2人とも・・・わっひゃあああああああああぁああぁああ!!
何かゴゴゴとかいう音がしたのでが見上げると、もう真っ白の世界。
の奇声にみんなも急いで見上げたが、もう遅かった。
──―――――――――――――――――――――――雪崩に巻き込まれてしまった。
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
「ん・・・」
が目を覚ますと、横に一列に仲間たちがグッスリと眠っている。
「そっか・・・私たち雪崩に巻き込まれたんだっけ・・・うぉっふ、寒っ」
変な声をあげ、は肩をすくめた。
寝ていた部屋を出ると、同じような部屋への入り口が何個もある廊下に出た。
そしてその端に、明るい光が漏れる階段がある。
 
が恐る恐る階段を上がる。
「(魔物とかだったらどうしよう・・・!?さっきの部屋は人間を食べるための準備の部屋・・・!?)」
魔物だったら助けないだろうという考えは全く浮かばないが聞いたものは、トロデの声とおばあさんらしき声。
 
「(だ、誰だろう・・・?)」
音を立てないようにそっと階段を登ったはずが、木が軋んでバッキィと音が鳴る。
「!!!」
「ん?誰じゃ?」
トロデが気づいたようでのいた階段まで走ってくる。
「・・・おぉ、か。そんなところにおらんでこっちへ来んかい」
「え?あ、はい・・・っ」
トロデに連れられ行ってみると、そこには姫様と馬車と、大きな犬とおばあさん。
「えっと・・・だ、誰なんでしょう王様・・・」
「お前らが雪崩で埋もれた所を助けてくれたんじゃよ。ワシがこの家の人まで言いにいったらあのバフとかいう犬が助けてくれて
のう。ワシがあのときヤンガスと喧嘩していなかったらお前らは今頃死んでたぞ?」
ハッハッハッ、と笑うトロデにもハハハと苦笑いする。
 
「どうじゃい?体のほうは?」
「えっ?あぅ、大丈夫です・・・!魔物だなんて思ってごめんなさいでしたっ・・・!!」
「はい?」
「いええええ何でもありませんっ!!」
すっかり、さっき思っていた心の声が飛び出てしまったは慌てて口を押さえる。
「ふぁっふぁっふぁっ、可愛い娘さんじゃのぅ」
「くわっ!?可愛い・・・!?」
顔を真っ赤にして更に慌てるを見てトロデも笑う。
「そうじゃろうそうじゃろう!ワシらの旅の中でもワシは一番気に入ってるんじゃよ!」
え、そうだったんですか王様・・・
がちょっと引き気味の顔をすると、トロデは「ワシを一目で王と分かってくれた恩じゃ」とか。
そんな恩なんかいらねぇよ!!!
 
 
助けてくださったおばあさんはメディと言うらしい。
その後、ヤンガスやククール、ゼシカも起きてきた。
とりあえずは吹雪が止むまでいさせてくれるといったメディおばあさんは、
ヌーク草という寒さに聞く薬草を溶かした水を飲ませてくれた。
 
 
 
 
 
「・・・・・・どこだろここ・・・」
は目を覚ます。茶色い天井が真っ先に視界に入り込み、横目に自分が寝ているのと同じようなベッドがある。
そっと体を起こすと目を疑った。
 
「・・・バフッ」
犬がいる。何だこいつは。
「バッフン」
バフバフと言うと、犬は座っていた大きな体を起こして部屋の入り口と思われるドアを自分で開けて、尻尾で閉めていった。
 
「・・・みんなはどこだろう・・・そういや僕ら雪崩にあったんだっけ」
頭を掻きながら、さっき犬が出て行った部屋のドアノブに手をかけて部屋を出てみる。
同じような部屋のドアの廊下の端には、明かりが上から漏れている階段。その先からはみんなの笑い声が聞こえる。
 
階段を登ると、みんながテーブルの周りに座って何かを話している。
 
、起きたんだ。遅かったね?」
「!!」
誰かの声がして振り向くと、がいた。
!?どこにいたの?」
が寝てた部屋の隣だよ。おばあさんに頼まれて物取りに行ってたんだ」
「おばあさん・・・?」
誰のことを言ってるのか分からなくて、みんなのいるテーブルのほうへ目を向ける。
そこには確かに、
の知っているトロデやゼシカの間に知らないおばあさんが一人座っている。
ということはこの家はそのおばあさんの家なのだろう。
 
「あのおばあさんがね、私たちのこと助けてくれたんだって!」
そう笑顔で言うに、もそっかと言う。
 
「おや、最後の一人が起きてきたみたいだよ」
「あ、じゃない!遅かったわね」
はやっぱりねぼすけじゃったな!」
わはははと笑うトロデ。はなんか今日はトロデはテンションが高いなと思った。
 
「あ・・・」
さっき、の眠っていた部屋にいた犬が暖炉の前で眠っている。
「その犬はバフって言ってね、お前さんたちを助けてくれたんじゃよ」
「そうなんですか・・・(名前そのまんまだな・・・)」
はっきり言って犬が苦手なは、顔を引きつらせる。
犬が、しかもこんな大きな犬が自分を助けたなんて思うといまさらだけど怖くなってくる。
 
 
 
 
「もう夜も遅いし、寝たらどうじゃ?」
え、僕今起きたところなのに
が眉を下げてそう言うと、みんなは笑った。
 
これからは寒いさむーい雪国の旅が始まる・・・。
 
 

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あとがき
描いて(見て)いるだけでさみいいいいい!!
というか写真見てるだけでも寒い。

2009.05.02 UP