二つの無くしたもの

 
「・・・、・・・?」
はもう一度、の名前を呼んだ。
ドルマゲスは舌打ちすると、指をくい、と自分の方へ向けた。
まるで超能力でも使っているかのように、に刺さった鋭い爪が、ドルマゲスの合図によって引き抜かれた。
引き抜かれた場所からは、滝のように血が溢れでてきていた。
 
「「「 !!!! 」」」
ヤンガスとゼシカとククールがのいる場所に近づいた。
「アルシェ!大丈夫!?」
「うぅっ・・・熱い・・・」
は、血の出ている場所が熱いと感じていた。
ベホマ!
ククールが何度もそう唱えたが、の傷口はごく僅かしか良くならない。
「いやよ!!目を閉じちゃダメ!」
「大丈夫でがすか、
!?」
は今にも目を閉じてしまいそうだった。
そんな狭い視界の中から、ゼシカたちの心配そうな顔が見え、自分の名前を呼ぶ声も聞こえる。
そして視界の端に映ったのは、絶望したようなの顔だった。
 
「・・・・・・、私、は・・・大丈夫だから・・・勝って・・・!」
の名前を呼び、の声に耳を傾ける。
「お願い・・・!何が何でも、・・・っ、勝って!負けちゃダメだ、よ・・・」
それだけ言い終えると、は力が抜けたように、目を閉じて意識を手放した。
 
 
「いやあぁああぁ!!!」
ゼシカの悲鳴が、今ドルマゲスと戦う薄気味悪い間に鳴り響いた。
「嘘だ・・・・・・」
は今にも泣きそうな声で、の顔を見た。
紫色の唇。まるで死人のよう・・・、否。
もう死んでいるのかもしれない。
 
「・・・ククール」
「何、だよ」
ククールも泣いてしまいそうなのを必死でこらえ、に答えた。
「無理かもしれないけど、ザオラルでを生き返らせてくれないかな。ククールまだザオリク覚えてないでしょ?」
「・・・わかった。・・・ザオラル!!
ククールは必死で、に蘇生呪文を唱えた。
の体の回りを明るい光が包んだが、すぐにそれは消え、少しだけ宙に浮いていたの体はすぐに床へと落ちた。
 
 
 
「ドルマゲス」
を置いて立ち上がり、ドルマゲスを殺気溢れた目で見つめた。
ドルマゲスは一瞬、
のその瞳に後ろへと退いたが、睨み返した。
 
「・・・今まで城を呪ったり、ゼシカやククールの大切な人を殺して本当に許せない存在だった」
は剣を力いっぱいに握り締め、構えた。
 
「でもこれだけは許さない。例えが今ザオラルで生き返ったとしても、絶対に許さない」
はみるみる打ちに、体の回りがピンク色のような赤色のようなオーラが包んだ。
「僕の・・・僕の愛しい人を痛い目にさせたお前だけは・・・絶対に許さない!!!」
 
怒りが爆発したかのように、赤色のオーラが一段と明るくなった。
 
「あれは・・・スーパーハイテンションってやつでがすね!」
ヤンガスは、赤いオーラに包み込まれたを見てそう叫んだ。
 
 
「・・・OK、の息が戻ったぜ」
ククールが何度かザオラルを唱え、はようやく生き返った。
まだ意識が戻ってはいないので、とりあえずククールはベホマを唱え
を安全な場所へと移した。
「・・・って、ありゃ相当怒ってんな。スーパーハイテンションってやつか?」
だけじゃないわ。私も怒ってるんだから!」
ムチを握り締め、ゼシカはドルマゲスを睨みつけた。
「・・・ま、それは俺もだけどな?」
ニヤッと笑ったククールも、剣を構えた。
「それじゃあアッシもやるでがすよ。をあんな目にさせた奴の罪は重いでがす!」
ヤンガスはゼシカとククールの顔を見てそう言うと、3人で頷きあった。
 
 
3人はドルマゲスのいる場所へ一気に走り、ドルマゲスに3人で一緒に攻撃した。
「こざかしい!!」
受けたダメージを回復しようと、自分にまとわりつくゼシカたちの体を払いのけたドルマゲスは、回復魔法を唱えようとした。
 
すると、自分の視界に影が差した。
ドルマゲスは焦りながらも上を見上げると、剣に炎を灯したがドルマゲスの真上へと来ていた。
「なっ・・・」
 
「だああぁああぁああ!!」
は大きな声を上げながら、自分に力を与えるように炎の灯った剣をドルマゲスへ真っ直ぐ振り下ろした。
その瞬間ドルマゲスは断末魔を上げ、絶叫した。
 
 
「この・・・私が・・・」
ドルマゲスは一瞬のうちに石へと化し、頭の先から砂になって消えていった。
 
を取り巻いていた赤いオーラはいつの間にかなくなって、いつものに戻っていた。
 
「やった・・・やったんでがす!アッシら、ドルマゲスを倒したんでがすよ!」
「とうとう・・・、これで兄さんの仇を討てたのね!」
ゼシカとヤンガスが嬉しそうに笑った。
 
「おーい!!」
トロデ王が駆けてきた。
「お、おっさんの声が聞こえるでがす。もう呪いも解けて・・・えぇ!?」
ヤンガスはトロデ王に背を向けていたので、振り返って驚いた。
だってそこには呪いが掛かったままのトロデ王の、魔物の姿があったからだ。
「おいおい、何でおっさん呪い解けてないんだ?俺らドルマゲスを倒したぜ?」
「ぬ?・・・そういやそうじゃのう・・・。まあ深いことは考えずさっさとこの気味の悪い遺跡から出るとしようぞ。話はそこで
しようじゃないか」
トロデ王の案で、この遺跡から出ることにした。
「んじゃリレミト・・・って何かここじゃ出来ねえな。とりあえずあの回復の泉らへんまで戻るか」
ククールのリレミトは不思議な力でかきけされ、ドルマゲスと戦う前にあったあの回復できる泉まで戻ることにした。
 
トロデ王が先頭でその次にヤンガス。
は慣れないといった感じでをお姫様抱っこし、それを大丈夫かと心配しているククール。
 
 
 
「・・・あら?」
ゼシカもククールたちの後を追おうとしていると、ドルマゲスがずっと持っていた杖が目に入った。
「トロデーン城の呪いが解ければもう一度封印するのかしら。とりあえず持って行っておくかな・・・」
ゼシカは床に転げ落ちていたその杖を拾い上げた。
その瞬間、頭に激痛が走った。
「いったぁ・・・何なのよ、コレ・・・」
すぐに頭痛は収まり、ゼシカは杖を持ってククールたちの後を追った。
 
これがゼシカの間違った判断だということを、誰一人知らずに。
 
 
 
 
「・・・ん?ゼシカ、その杖・・・」
「え?ああ、これ?ドルマゲスが持ってた杖よ。もう一回トロデーン城に封印するだろうと思って!」
ニコッと笑うゼシカに、ククールはそれ以上何も言わなかった。
しかしククールは何となく、悪い予感のする気もしていた。
 
 
 
 
入り口からすぐに宿が近いということでサザンビーク城へとルーラしたたちは、宿へと駆け込んだ。
部屋はゼシカとの2人部屋がひとつ、、ヤンガス、ククールの3人部屋がひとつ。
 
「じゃあ本当は僕がずっとここに居たいんだけど・・・ゼシカ、のことよろしく頼むね?」
「ええ、わかったわ」
いつになく笑顔のゼシカ。は不思議に思った。
「ゼシカ、何かあった?やっぱりドルマゲスが倒せてうれしかったの?」
「え!?い、嫌だそんなんじゃないわよ!いや嬉しいけど・・・」
えへへ、とゼシカは本当にご機嫌そうに笑った。
も何だかその笑顔につられ、を心配していた深刻そうな顔が少しだけ晴れた。
「もしの具合が悪そうだったらすぐ僕を呼んでね!じゃあ、おやすみ」
「おやすみ、
笑顔で寝る挨拶をするゼシカに、は2、3回手を振って女子部屋を出た。
 
「・・・んー・・・。ゼシカ・・・何かあったのかな・・・」
は独り言をもらしながら自分の部屋へと帰った。
 
 
 
 
 
 
 
「んっ・・・」
朝日が差し込む部屋。外はまだ薄暗いような感じだ。まだ早朝なのだろう。
「っ!いったぁ!」
は苦痛に顔を歪ませた。腹部が動くたびに痛い。
は患部に手をあてて回復魔法を唱えると、まだ痛みはあるが何とか動けるようになった。
 
・・・みんな・・・心配かけちゃったよね」
独り言をもらし、は起き上がって辺りを見回した。
隣りのベッドはもぬけのカラだった。
いつもならゼシカと2人の部屋だ。このベッドも、ゼシカが使っていたのだろうか。
「トイレかな?」
は深くは考えずにそう解釈すると、まだ薄明るい窓の向こう側を見ていた。
 
 
「ゼシカ戻って来ないなあ・・・。何かあったのかな」
いくら経っても戻ってこないゼシカを心配したは、まだ痛いお腹を押さえながらトイレへと向かった。
「ゼシカ?いる?」
ドアをノックをしながらゼシカを呼んだが、返事はない。
「入るよ?」
入っていたらどうしようという思いが込み上げながらも、はゆっくりとトイレの扉を開けた。
 
「いない・・・」
トイレにはいなかった。脱衣場もお風呂場も見てみたが、ゼシカは部屋のどこにもいない。
「ここ?」
はクローゼットを開けた。いない。
「ゼシカ?」
は蓋のあるごみ箱を開けて見た。もちろんいるわけがない。
 
「んー・・・朝散歩にでも行ったのかな・・・」
とベッドに戻ろうとしたがふと見たものは、ゼシカの荷物があることだった。
「どういうこと・・・?」
盾も鎧も兜も、愛用のムチでさえも置いてゼシカはどこかに行ってしまっている。
「いつ魔物に逢うか分からないのに、無防備だなぁゼシカは・・・」
 
さすがに少しだけ不安になったは、
「いてててて」
と動くたび痛むお腹を押さえながら、部屋を出た。
 
 
「あれ、ヤンガス?」
宿のロビーにはヤンガスがいた。
「おお!、意識が戻ったんでがすか!兄貴に知らせなきゃっ・・・」
「い、いいよ。今って朝だよね?早くに起こしちゃ悪いもん」
ね、と言うとはニコッと笑った。
ヤンガスはそうでがすかー?と言うともう一度ロビーの椅子に座った。
「ヤンガス、やっぱり早起きだね。トラペッタの宿の時もそうだったよね〜」
「何か勝手に目が覚めるんでがすよねー。もうおっさんの証拠でがすかねえ、
?」
その問いかけに否めなかったは、顔をひきつらせていた。
 
 
「あ、そうそう、ゼシカのこと見なかった?部屋のどこにもいないの。クローゼットの中もごみ箱の中も」
何でそんな変な場所ばっか探すんでがすか。ゼシカの嬢ちゃんなら見てないでげすよ。アッシはずっとこの宿の入り口付近に
5時から居たでがすが」
5時!?
は余りにも早いその時間に目を飛び出した。
「5時って、もちろん朝の5時だよね?」
「当たり前でがすよ。そら昨日の5時なんて、アッシそんな時間は無駄にしないでがす
ヤンガスは大きな声で笑い飛ばしていたが、まだ朝で他の人に迷惑なんではヤンガスの口を押さえた。
 
「え?あの胸の大きい女の子かい?」
「はい・・・見ませんでしたか?」
入り口にいる宿のおばさんに、とヤンガスはゼシカの居場所を聞いてみた。
 
「んーっと・・・確かここを朝の4時半くらいにものすごい形相で出て行ったわよ」
「「4時半!?」」
ヤンガスのいた時間よりも更に早くに、ゼシカはここを出ていったことがわかった。
「それでどこ行くとか行ってやしたか?」
「北のリブルアーチに向かうって行ってたけどねぇ。ケンカでもしたのかい?」
おばさんは不思議そうにたちに質問したが、その質問も耳に入らないくらいは考えていた。
何のためにゼシカは出て行ったの?用事があるなら、言えばいいのに・・・。
「とにかく大変でがすよ、兄貴ぃ!」
「あ、待ってよヤンガス!うっほぉ、痛い☆とっても激痛が走りました今ー★」
激痛の走るお腹を押さえ、たちのいる男子部屋へと突っ走るヤンガスをは奇声を上げながらも必死に追いかけた。

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あとがき
一気に2話更新してみますた。
あは、一瞬死にかけたけど、
ちゃんは不死身です(意味違 

それにしても最後の「うっほぉ痛い☆とっても激痛が走りました今ー★」は何か・・・お前本当に痛いのかよ・・・
と言いたくなりますねぇ。

うわー次はアイラビューなゼシカがいない事件!私がゲームでくそ死ぬ思いでやったイベント!
がんばるよ!(何

あ、タイトルの「二つの無くしたもの」
ひとつは
の命(戻ったけどw)で、もうひとつは離脱したゼシカのことです。

2009.03.07 UP