最後の日
「ないでがすねえ・・・」 ヤンガスがため息をついてそう言った。どこを探しても、ない。 たちは今海に出て、岩のアーチとなっている場所を探していた。海の中にあるとは限らないのだが、の案でこうなった。全員が船のあちこちに散らばり、広大な海原を見回すのだがない。 「・・・早くその海竜を見つけて鏡に魔力を戻さなくっちゃ・・・」 ゼシカは遠くを見つめ、独り言を呟いた。 「ドルマゲスの野郎、今ごろあの遺跡で何してやがんのかな・・・」 ククールも、ゼシカと同様独り言をもらした。
はあたりをキョロキョロして、どこかにその岩のアーチとなっているところはないか調べている。さすがに世界地図にはこんなことは載って居ないので、自分たちで自力で探すしかないようだ。 「んー・・・トラペッタのルイネロさんならわかってくれるかなー」 いくら見渡してもそんな場所は見つからない。他人の力を頼りにしてしまいそうになった時だった。 「・・・アーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー!!!」 がいきなり発狂した。
「どうしたの、?」 がまるでUFOでも見つけたかのように上空を指す。そこには、大陸と大陸の断崖の間に掛かる岩のようなもの。岩の上には家などが見えるので、おそらくあそこは町か何かなのだろう。 「うっおー!よく見つけたじゃねーか!」 どういう意味だよ、との言葉に批判するククールをは無視し、を見た。 「・・・たぶんあれだよね?」 ニコッと笑うに、も微笑み返した。 そして。 「(が笑ったーーーーー!!うっひゃキュン死にしてしまいそうですなんですがー!!! と、一人で もがいていたのだった。
岩のアーチをくぐるとやはり海竜がたちを襲い掛かった。結構な強敵でもあったがなんとか倒した。 「・・・ん?僕たち何か忘れてない?」 ヤンガスのその言葉に、一同は思い出した。 「「「「「 鏡に光を当ててないやないかーい!! 」」」」」 5人は顔を見合し、足の力を失くして座りこんだ。 「いっちばん肝心な仕事してないじゃないのよ」 みんなで重いため息をついたが、はすぐに立ち上がった。 「ま、まあここで落ち込んでても仕方ないし・・・とりあえずもう一回出てくるまで船を動かそうよ」 その案にみんなは重い腰を支えて立ち上がり、再び海竜が出るまで船を走らせた。
海竜はすぐに出てきた。すかさず袋から魔力を戻さなくてはいけない鏡を、が掲げる。 「みんな、とりあえずあいつがその魔力を戻してくれるっていう口から放つとかいう・・・ほら、あれだ、光をこう、口から放つ技をやるまで攻撃しちゃダメだよ!ほら、あのーえーっと防御しといて」 「おい、ちゃんと頭の中で整理してから話せ」 盾で防御しながらククールは、鏡のせいで防御できないにスカラを唱えながらに突っ込んだ。
「ふーっ!鏡は光ちゃんと浴びたけど、なんとか魔力戻ったのかしらね?」 すかさずルーラでサザンビーク城内へ駆け込み、魔力がないと言った学者のもとへたちは急いだ。
「ああいたいた。ねえ学者。この鏡もう魔力は戻ってる?」 学者は顔に少し冷や汗っぽい変な汗を垂らしながら、タメで話すゼシカを注意した。
「んー・・・と、そうですね、魔力はどうやら戻っているみたいです」 よかったですね、と笑顔で答える学者に、はお辞儀した。 「はーっ、あの学者さん笑いのセンスあるんじゃない?ツッコミ良かったね!」 はっはっはっと笑うに、ククールは心のこもっていない声でそうだなと返事した。
とりあえず今日はまだ早いのだが、もう宿屋に泊まることになった。明日はおそらくもう決戦になるからである。 食事時、何だか話が弾まなかった。明日はドルマゲスと戦うことになる。自分たちは生きて帰ってくるのか、死んでしまうのかはわからない。でも今までに何人も殺めて来たドルマゲス。素手で熊を倒すと言われていたあのギャリングでさえ殺した犯人。 そんな強い人を、自分たちが倒すことができるのか。仇を討つことができるのか。 ひとりひとりドルマゲスに対して違う思いを持ったこの5人は、ご飯を食べながら色んなことを考えていた。
食べ終わり部屋に戻ると、ゼシカはベッドに倒れこんだ。 「はーっ・・・疲れたわねえ・・・」 会話も何だか重い。
「あ・・・ごめん、ゼシカ。あたしちょっと散歩してくるね」 は満面の笑みで、ゼシカに藁って部屋から出て行った。
夜のサザンビークは、風が冷たくて気持ちがよかった。頭を冷やせるというか、一人になれて気が楽だった。 サザンビークには町の中心に1本の川があるので、川の向こう側に行くためには小さな橋を渡らなければならない。橋の真ん中はベンチがあり、はそこに腰かけた。いつも昼なら、ここには子供や詩人や友達を魔物に食われてしまった人たちが、物思いにふけるときによく使っている。 「・・・」 もう、明日で旅が終わってしまうのだろう。私たちの目的はドルマゲスを倒すこと。それがなければ、こうして5人が巡り会うこともできなかった。その点はドルマゲスに感謝とでも言うべきか。 今までの旅であったことを思い出す。 みんなで願いの丘に登ったこと。パルミドでゲルダとのことで、ヤンガスをからかったりしたこと。 今にも泣き出してしまいそうになった。できれば、ずっとこの旅を続けたい。
「私は・・・旅が終わったらいつか元の世界に戻れるのかな・・・」 ふと、元の世界の母親を思い出した。こっちの世界も楽しかったから、なんとなく戻りたいという気持ちは薄れていった。でも決戦前日の今、いきなり何だか怖くなって、逃げ出したくなった。 もしかしたら自分は死んでしまうかもしれない。 そう思うと、涙がひとつ頬を伝った。 「っ・・・」 必死に涙をこらえたけど、次々と溢れ出てくる涙。必死で声を抑えて、泣いていた。
「何泣いてるの?」 ふと誰かの声が聞こえ、は顔を上げた。 そこには・・・がいた。 「・・・」 泣いているを心配そうな顔で見つめる。は大事な仲間を見て、安心した。 ベンチから立ち上がり・・・に抱きついた。 「えっ!ちょっと!?」 子供のように大きくはないけれど、はの腕の中で小さく泣き声を上げた。 「大丈夫?」 泣いている理由を聞かないのは、彼なりの優しさなのだろう。そんなの優しさに、は甘えてしまっていた。
しばらく立って、は泣き止んだ。 「ごめんね。何もしてあげられなくて」 さっきまでの弱いからは想像もできないくらい、は落ち着いて話していた。 「うーん・・・でもまた泣きたいときがあったら、僕に言って?」 ちょっと顔を赤くしているに、は問いかけた。 「僕がいつでも慰めてあげるからさ」 優しい笑顔のに、はまた泣いてしまいそうになった。
「うん・・・うん・・・。ありがとう・・・」 涙を必死でこらえて、も笑った。
「じゃあ・・・おやすみ。明日頑張ろうね!」 優しい言葉を掛けてくれるには手を振り、は宿屋へと入って行った。
「っはーーーーー・・・」 大きくため息をつく。僕は今日で何回ため息をついているのだろう。 最近は、少し元気がないと思っていた。チャゴスたちとアルゴンハートを取りにいった日も、夜で一人嘆いていたのには正直まいってしまった。僕にできることは何かないかと必死で考えた。でもやっぱり、みんなと同じように仲間として傍にいてあげることしか出来ない自分。そんな自分が悔しかった。 無理して元気に笑っている。いつも一人で、さっきのように隠れて泣いている。いつも。考えて見れば、大切な親や友達と離れて、全く知らない世界へ飛ばされてしまったのだ。つらいのは無理もない。 なのに、自分は何で何もできないのだろう。こんなにも愛しい存在なのに、どうして何もできない自分がいるのだろう。何かしてあげたいのに、そう思っているのに。どうしてのつらさに今まで気付いてあげられなかったのだろう。 そう考えていると、またを抱きしめてあげたくなった。自分に出来ることなら何かしてあげたい。
「さ、さっきの僕・・・不自然じゃなかったかな・・・」 顔を赤くしながらはさっきまでが座っていたベンチに座りこみ、また大きなため息をついた。
「ふぅー・・・私は何て大胆なことを!ああ神様さっきは無期懲役とかいってごめんなさいだから過去に戻してぇぇぇぇ」 の叫びもむなしく、2人の嘆きが夜のサザンビークに響き渡った。
あとがき 2009.02.19 UP |