ふしぎな泉
「これはチャゴス。本当にお前が持ってきた物なのか?」 クラビウス王はチャゴスを睨み付けるように、鋭い目つきで質問した。 「はい、そうです。もう何ですかお父様!さっきから何度も!」 闇商人と取引したアルゴンハートを堂々と城に持ち込み、父であるクラビウス王に自分が次期王であることを証明しに来たチャゴス。しかしクラビウス王はチャゴスが闇商人と取引しているところを全て双眼鏡で見ていたのだ。 「いや・・・何でもない。・・・ご苦労だったチャゴス」 王様は深いため息をつくと、チャゴスを部屋に帰るように促した。チャゴスは頭に疑問符を浮かべながら、部屋に戻って行った。 サザンビーク城下町や城内では、チャゴスが歴代王の中で最も大きいアルゴンハートを持ち帰ったことに大騒ぎだ。アルゴンハートの見物客で、城内はいつもよりも活気があった。
「はっきり言ってアルゴンハートってチャゴスが取ってきたって言っちゃ駄目よね!私たちが取ってきたもんでしょ!」 がそう言うと、ゼシカは名前を呼んでもらってる時点で有難いわよと言った。相変わらず毒舌な女、ゼシカなのである。
「そんじゃあ一応 約束果たしたわけだし・・・王様の所行こうか」 王座の間でチャゴスとクラビウス王たちのやり取りをみていたたちは、チャゴスが自室に帰り未だ沈み切った顔をしているクラビウス王に駆け寄った。
「・・・おぉ、そなたたちか。チャゴスのお供ご苦労だったな」 少し聞きにくそうにが言うと、クラビウス王は思い出したような顔をした。 「そうだったな!・・・その前に一つ聞きたいんじゃが・・・。あのアルゴンハートは本当にチャゴスが持ち帰った物なのか?」 そう質問する王様に、はたちの顔を見た。言うか言わないか、どうするかを目で相談してきたのである。 「そうか・・・やはり・・・。いや、すまなかったな。宝物庫の方を開けておくように兵に既に頼んでおいてあるから、そこから鏡を取っていくといい」 王はそう言うと、また何かを考えているような顔をして俯いた。
王の様子が心配になりながらもとりあえず、城にある宝物庫へと急ぎ、たちは鏡を手に入れた。 「よーし鏡も手に入ったし、クラビウス王にチャゴスの悪行も知ってもらえたし、色々解決してよかったわね!」 拳をポキポキ鳴らしながらそう話すヤンガスに、こいつは本気だと一行は感じた。
その頃一方チャゴスくんは。 「ふっふっふ、これでミーティア姫も輝くアルゴンハートをもらって俺にイチコロだー!」 宝石でしか女を落とせないチャゴス。
「ちょっと待ってください!」 太陽の鏡を持ち宝物庫を出たたちに、すぐ前にいた学者が声を掛けた。 「少しその鏡を見せてもらってもよろしいですか?」 大事そうに鏡を抱えていたは、学者に鏡を渡した。
「やはりこれは・・・!」 が聞くと、今まで眼鏡をいじくり倒していた手をやめて学者はこう言った。
「この鏡、もともと宿っていた魔力がもうありません」 5人の顔は驚愕に満ちていた。この鏡の魔力がなければ、闇の遺跡の結界を破くことはできない。 「魔力はどうすれば戻るんですか?」 嬉しそうな顔でそう言う学者に、5人は顔を見合わせて頷いた。 「ありがとうございます!早速その人の所へ訪ねに行きます!」 学者はそれだけ言うと、にっこりと笑ってたちを送り出した。
「サザンビーク湖の近くといえばパンツマスク・・・」 は意味不明な言葉で謎を残して、黙ってしまった・・・。
サザンビーク湖を越え、商人たちのテントがある場所を過ぎると細い道があった。あの学者に言われなければ、気付かなさそうなくらい細い道である。 その道に入りずっと進んでいくと、1軒の家があった。 「ここがあの学者の言ってた隠居してる師匠の家か?」 そんなことを言いながらドアをノックして入ったのだが、中には泥人形とスライム、ドラキーの魔物しかいなかった。しかしこの魔物たちは人を襲うような魔物ではなく、人のように話し優しい心を持った魔物だった。 「僕、あまのじゃくなスライムだっち!ここにいるおじいさんは今、ここからもうちょっと奥に進むとある泉にいるっち!嘘じゃないっちよ!信じてくれるだっちか?」 ちょっと不思議そうな顔で、自称あまのじゃくなスライムはを見た。
「自分バカデスカラ言ッテル意味ガヨク分カリマセン・・・。10、9、8・・・」 本当に最近、は生ゴミという単語が気に入ってるようです。いつもククールに言われてしまいます。 「3、2、1・・・ブッ」 はゼシカに引っ張られながら、家を出た。
馬車を引いて、1軒の家の奥を更にいくと、スライムの言ったとおり泉があった。そこには、とんがりぼうしをかぶった髭の長いおじいさんがいた。 「あのー・・・」 おじいさんはゆっくり振り返った。目は開いていない。 「・・・ほぅ、またこれは綺麗な姫様じゃなぁ」 おじいさんは杖をつきながら危なっかしい足どりでミーティアに近づき、首のあたりを触った。 「うぬ・・・。確かにこの毛並みは馬じゃな・・・。実はワシは目が見えんのじゃ。だからいつも人を見るときは心の目で見ているんじゃが、ワシの心の目に見えるのは黒髪の長い綺麗なドレスを身に纏った姫様なんじゃが。ワシは今まで生きていてこんなに綺麗な姫様は見たことがないくらいじゃ」 おじいさんは何かを考えるようにしてそう話した。 「そうかそうか。姫は例え呪われていたとしても、しかも目の見えんご老人でもやはり姫の気品は感じ取れるんじゃな」 フフン、と自慢気な顔をしてトロデ王は胸を張る。まあ確かにご老人ではない。
「そうか・・・この姫様は呪いで馬へと変えられてしまったのじゃな?・・・それならこの泉の水を飲むといい」 ふん、とトロデ王は意地を張ったのだろうが、ミーティア姫は興味深々なのか泉に近づいていく。
一口、ミーティアが泉に口をつけて飲んだ。そのとき、ミーティアの体が光り輝いた。 あまりの眩しさに、その場にいた皆は目を瞑って光が目に入るのを遮った。
光が止み、皆は恐る恐る目を開けた。するとそこには、さっきおじいさんが言っていた姫様の姿にそっくりな、気品溢れる女の人がいた。馬の姿などどこにもない。 姫の姿を知っているとトロデ王はうれしそうにミーティアへ駆け寄った。 「お父様、・・・!ミーティアは戻れたんだわ!呪われる前の姿に!」 本当に嬉しそうに涙を流しながら、ミーティアはトロデにそう告げた。 「ミーティア・・・!よし、それではワシも飲むとするか!」 そう言ってトロデが泉の水を救いあげて飲もうとした時だった。
「あ・・・!」 小さな光を放って、ミーティアは元の馬の姿に戻ってしまった。トロデはその出来事に冷や汗を浮かべ、手に救っていた水を投げ捨ててミーティアに近寄った。 「なんと・・・この泉の水でも呪いが一瞬しか解けないとは・・・。そうとう強力な呪いのようじゃな・・・」 おじいさんは残念そうな顔をして、下を向いた。
「・・・姫様・・・」 がそう言うと、ミーティアはもう一度泉の水を飲んだ。また光を放って、ミーティアは人間の姿に戻る。
「さっきはビックリしました。ミーティアはお水を飲んでもどうやら一定の時間しか元の姿には戻れないみたい。でも水だとミーティア、お腹いっぱいになっちゃうわ・・・。そこで、ミーティアからの命令です!」 ニコッと笑うミーティアは、以外に見向きもしない。父であるトロデにも。 「ミーティアのお腹が空いた頃になったらまたこの泉へ連れてきて?命令よ?」 そう言い終えると、また時間が来たみたいでミーティアは馬の姿へ戻ってしまった。
「うぬ・・・。ワシはちょっと先に家に帰っておる。調べ事を思い出したのでな・・・。お前さんたちも何か用があってワシを訪ねてきたんじゃろ?話はそこで聞こう・・・」 それだけ言っておじいさんは家へと帰ってしまった。
「姫様、すごいキレイな人だったね」 ゼシカに言葉を遮られ、ククールはちょっとションボリしていた。
「!」 泉の近くで、寂しそうに馬の姿で佇むミーティアの傍で立つに、は話しかけた。 「・・・僕、早く姫様の呪いを解いてあげたい」 それだけ言うとは馬の姫様の姿を見つめた。 「ねえ、またここに来よう?だって姫様の命令だもんね!」 ニコッと笑うを見て、は少しだけ笑って、うん、と言った。
トロデ王たちを連れ、もう一度おじいさんの家を訪ねた。まだ泥人形のおならの臭いがする・・・。 「おじいさんなら上の階にいるっちよ!」 階段を上っておじいさんを探したがどこにもいない。 「こりゃ、あまスラー!おじいさん上の階のどこにもいねえーじゃーねーかー!」 家の中でとスライムの2人(1人と1匹?)で追いかけ回る。が、どちらも楽しそうだった。
「お・・・じ・・・いさ・・・ん・・・は・・・隣の・・・部屋に・・・いる・・・ブッ」 興奮するを抑え、悔しがるスライムを横目にゼシカは隣の部屋のドアをノックした。
そこにはおじいさんが居て、本を見ている。部屋の中は薄暗いが本がたくさんあることだけは確認できた。 「おお、さっきの人たちじゃな。それでワシを訪ねてきたのは何じゃったのじゃ?」 そういうと、おじいさんは何かを思い出したように見えない目を見開いた。 「ほぅ・・・!太陽の鏡!あの魔力を戻すには確か・・・岩のアーチの下に出る魔物の特技を使う・・・だったかの」 よくわからないおじいさんの言葉に、全員首を傾げた。 「今のじゃわからないじゃろうな・・・。この世界のどこかに、岩でアーチになっているところがあるんじゃよ。そこを潜り抜けたときにでる魔物の特技に、魔力を取り戻すことのできるものがあるんじゃ。その特技は確か、その魔物の口からものすごい光が放たれ、敵の目をくらませるとか何とか。その光に鏡を浴びせれば、魔力が戻るじゃろう」 そう言うとおじいさんはまた本を読み出した。心の目で読んでいるのだろうか。ちゃんと読めてるのか分からないけど。 ありがとうございますとが言い、たちはおじいさんの家を出た。
「この世界のどこかってまたアバウトでげすね。どっから探しやしょう兄貴?」 そのの案に皆賛成し、急いで船へと乗り込む一行なのであった。
あとがき 2009.02.11 UP |