幻想
さっきから何度、この攻撃を受けているんだろう。
回復魔法の使えるククールの魔力は尽き、ゼシカも攻撃と魔法でそろそろ限界のようだ。 の豊富な魔力のおかげで、たちは今こうして戦うことができている。 「ベホマラー!」
がそう唱えると、5人の体を淡い光が包んだ。体力が回復してくる。 「うっ・・・」
たちがこの洞窟に入ってくる理由でもあった、アスカンタ城の国宝「月影のハープ」を手にし、 「やったでがすよ兄貴!」
がそう言った瞬間、ドン・モグーラも体にめいっぱい力を入れて、起き上がるとハープの弦を無造作に弾いた。
「ひええええええええええぇぇぇぇぇぇ」
皆が耳を押さえたその瞬間だった。
が、もう一度剣を振った。さっきと同じように、ドン・モグーラは苦しそうに倒れこんだ。
「・・・こ、今度こそはやったでがすよね!?」
はふう、とため息をつき、剣をしまった。
闘いを見ていた子分のモグラが、続々と洞窟の奥から出てきた。 「そのハープは君たちにあげるよ。だからこれ以上ボスを傷つけないで!」
モグラはたちを見上げ、声を弾ませながら言った。 「だって僕たち、ボスのこと尊敬してるんだから!」
そう言って、モグラたち10匹ほどで重い重いボスの体を持ち上げ、洞窟の奥に消えていった。
「・・・っハー・・・。疲れた。早く帰ろうぜ」
ククールとゼシカは伸びをすると、全身が脱力して座り込んだ。
「、まだ魔力ある?みんなもう使い果たしちゃったみたいでさ」 脱力ククールと放心ゼシカの腕をは無理やり握り、ヤンガスの硬くて皮の分厚い手に腕を掴まれ、 「リレミト!」
は大事そうに月影のハープを手に持ち、余った魔力で唱えた。
「ですがやはりここはこうした方が・・・」
未だに出動会議をしているアスカンタの兵、大臣、パヴァン王。 「だからそこは・・・あっ、さんたち!今、会議をしてるのでもう少ししたら出動・・・あれっ?」 パヴァン王が見た先は、が抱えるハープ。 「や、やはり!それはこの国の宝の・・・月影のハープ!」
がニッコリと笑うと、パヴァン王はびっくりしたように口を開いた。
「そうですか!私たち兵が出動する前に取ってきてしまったんですね。やはり戦闘を重ねてきた旅の方だけありますね」
パヴァン王は関心したように5人の顔を一人ずつ見た。
「そのハープはあの時の仮を返すために差し上げます。これからも旅を頑張ってくださいね!吉報をお待ちしています」
「やっぱなんかあのパヴァン王ってさ、役に立つのか立たないのかわかんねえな」
ハープを手にし、アスカンタの城下町を歩いて外に出る。
「で、どうじゃったんじゃ?ハープは手に入ったのか?」
が変な効果音と共に、月影のハープをトロデに見せびらかすようにした。
「おお!手に入ったか!それじゃあさっさとわしの城に向かうぞ!今からルーラで行けば月の世界に行くのも間に合うじゃろ」
「あ!そういえばまだ宿泊まってなかったんだよね。まだ私魔力あるから、私がルーラやるよ」
みんなに捕まり、は馬車に触れた。意識を集中させ、目を瞑った。 「トロデーン城へ・・・ルーラ!」
ギュウンと風のような音が鳴り、草原の草や葉たちは風にのって散る。
「確か前に近道のドアの鍵を開けといたから、楽だねえ」
が魔物をビシバシとぶった押しながら、その鍵を開けたドアを開いた。
そのとき、丸い満月の月は空の真上に来ていた。
ガチャ、とドアが開く音が鳴る。 「行くよ!」
それぞれ返事すると、は扉を開くと、神秘的なあの世界へと来ていた。 円盤と円盤の足場も怯えることなく乗り越え、月の世界の奥の家へと歩を進める。
「おいヘチマウリー!なんちゃら突き突きのハープを持ってきたでがすよー」
ヤンガスがヘチマウリと言った瞬間、たちに背を向けていたイシュマウリは素早く振り返った。 「うおおうっっ・・・い、イシュマウリでがすよねっ」
その迫力はものすごかった。
「そうか、人の子たち。それが君たちの願いにふさわしい楽器なのだな」
イシュマウリはスッ、とハープを持つに手を差し伸べる。 イシュマウリはハープをポロン、と一つ音を奏でた。
「・・・あれ?私たち今、月の世界にいたんじゃ・・・」
辺りを見回すと、確かにさっきまでいた月の世界ではなく、古代船が眠る荒野のど真ん中だった。
「私が君たちの願いが集まる場所へ連れてきたのだ」
が関心したように言うと、イシュマウリは気付かないくらい少しだけ微笑んだ。
「それでは今からこの船を動かす」
みんなが不思議に思った瞬間、イシュマウリはハープで音楽を奏で出した。
「・・・まさか!月影のハープでさえもこの願いを叶えることはできないのか・・・」
イシュマウリが驚いた顔をした。そう、ミーティアがイシュマウリの前に出たのだ。
「・・・そうか。馬の姿とあっても姫。姫の歌声も参加してくれるかい?」
ミーティアは嬉しそうに首を振った。
イシュマウリが奏でる綺麗なハープの音に、馬ではあるがミーティアの歌声。
「・・・なあ、」 男2人で残念そうな顔をしながら、イシュマウリとミーティアの姿を遠い目で見ていた。
荒野には水が溜まってくる。溺れるのかと必死になったが、イシュマウリ曰く幻想の水なので溺れないらしい。
水が溜まり、海まで流れるくらいの高さまでになった。
「すっご・・・」
とで関心していると、横で悠々と泳ぐククールがいた。 「あれ・・・本当にカリスマとか呼ばれてたんだよね、修道院では・・・」
うん、とは笑顔でうなずくと、と共にガラスの階段をゆっくり登りだした。 「・・・あ、イシュマウリさん・・・」
が思い出したように、振り返った。だがもうそこには、イシュマウリの姿は見当たらなかった。
船が手に入った。
そう心に決めた5人プラス2匹の思いが、一致した瞬間だった。
あとがき 2008.12.11 UP |