幻想


「芸術スペシャル!」
さっきから何度、この攻撃を受けているんだろう。
おそらくドン・モグーラと戦い始めてから1時間は立とうとしている。
回復魔法の使えるククールの魔力は尽き、ゼシカも攻撃と魔法でそろそろ限界のようだ。
とヤンガスはひたすらドン・モグーラに攻撃を与える。
の豊富な魔力のおかげで、たちは今こうして戦うことができている。
 
「ベホマラー!」
がそう唱えると、5人の体を淡い光が包んだ。体力が回復してくる。
は今にも倒れそうな体に力を入れて、ドン・モグーラに剣を振りかざした。
 
「うっ・・・」
たちがこの洞窟に入ってくる理由でもあった、アスカンタ城の国宝「月影のハープ」を手にし、
ドン・モグーラは
の一撃に、苦しそうに後ろに倒れた。
「やったでがすよ兄貴!」
「・・・まだだ!」
「え?」
がそう言った瞬間、ドン・モグーラも体にめいっぱい力を入れて、起き上がるとハープの弦を無造作に弾いた。
辺りに耳が痛くなる音楽が響く。
 
「ひええええええええええぇぇぇぇぇぇ」
「許してくだせえええ!耳が死ぬでがすーーー!!!!なむあみだぶつ なみあみだぶつううう!!!!
皆が耳を押さえたその瞬間だった。
 
が、もう一度剣を振った。さっきと同じように、ドン・モグーラは苦しそうに倒れこんだ。
「・・・こ、今度こそはやったでがすよね!?」
「うん・・・たぶん」
はふう、とため息をつき、剣をしまった。
 
闘いを見ていた子分のモグラが、続々と洞窟の奥から出てきた。
ハープを拾い上げ、
の手にそっと乗せた。
「そのハープは君たちにあげるよ。だからこれ以上ボスを傷つけないで!」
「どうして?このボスのせいで君たち毎日死ぬ思いなんでしょー!?
「う、うん。でもそれもこれもこのハープのせい。そりゃあボスの歌声は酷いけど、それ以外では本当に優しい方なんだ」
モグラはたちを見上げ、声を弾ませながら言った。
 
「だって僕たち、ボスのこと尊敬してるんだから!」
そう言って、モグラたち10匹ほどで重い重いボスの体を持ち上げ、洞窟の奥に消えていった。
 
「・・・っハー・・・。疲れた。早く帰ろうぜ」
「そうね。あの芸術スペシャルとかいう全体攻撃は痛かったわね・・・」
ククールとゼシカは伸びをすると、全身が脱力して座り込んだ。
 
、まだ魔力ある?みんなもう使い果たしちゃったみたいでさ」
「んっ・・・と・・・大丈夫みたい!じゃあ洞窟出るから、みんな私に捕まってー」
脱力ククールと放心ゼシカの腕をは無理やり握り、ヤンガスの硬くて皮の分厚い手に腕を掴まれ、
は申し訳なさそうというか、恥ずかしそうに少しだけの腕を掴んだ。
 
「リレミト!」
は大事そうに月影のハープを手に持ち、余った魔力で唱えた。
5人の回りをオレンジ色の光が放たれると、体は一瞬にして夕焼けの綺麗な外へと出されていた。
 
 
 
 
 
 
 
 
「ですがやはりここはこうした方が・・・」
「早く出動しないと・・・」
「この武器のあれが・・・」
未だに出動会議をしているアスカンタの兵、大臣、パヴァン王。
たちの為に今ハープを取り返そうとしているパヴァン王の指図なのだろうが、いくらなんでも遅すぎる。
パヴァンはきっと、実行より作戦を練り上げるタイプの人なのだろう。
 
「だからそこは・・・あっ、さんたち!今、会議をしてるのでもう少ししたら出動・・・あれっ?」
パヴァン王が見た先は、が抱えるハープ。
その見覚えのあるハープに、パヴァン王は吸い寄られるように
に近寄った。
 
「や、やはり!それはこの国の宝の・・・月影のハープ!」
「はい、私たちが取ってきちゃいました」
がニッコリと笑うと、パヴァン王はびっくりしたように口を開いた。
「そうですか!私たち兵が出動する前に取ってきてしまったんですね。やはり戦闘を重ねてきた旅の方だけありますね」
パヴァン王は関心したように5人の顔を一人ずつ見た。
 
「そのハープはあの時の仮を返すために差し上げます。これからも旅を頑張ってくださいね!吉報をお待ちしています」
 
 
 
 
 
 
 
「やっぱなんかあのパヴァン王ってさ、役に立つのか立たないのかわかんねえな」
「こらククール!そんなこと言っちゃだめでしょーうお魚!」
「何だ最後の『うお魚』って・・・」
ハープを手にし、アスカンタの城下町を歩いて外に出る。
外にはトロデとミーティアが待っていた。
 
「で、どうじゃったんじゃ?ハープは手に入ったのか?」
「はい、王様これでーす!ジャンジャカジャンジャーカージャン♪
が変な効果音と共に、月影のハープをトロデに見せびらかすようにした。
 
「おお!手に入ったか!それじゃあさっさとわしの城に向かうぞ!今からルーラで行けば月の世界に行くのも間に合うじゃろ」
「あ、そういえば私たちイシュマウリに頼まれてハープ取りに行ってたのよね。忘れてたわ」
「俺も忘れてた」
 
「あ!そういえばまだ宿泊まってなかったんだよね。まだ私魔力あるから、私がルーラやるよ」
「さっきから悪いわね・・・。お願いするわね」
「じゃあみんな捕まってねー」
みんなに捕まり、は馬車に触れた。意識を集中させ、目を瞑った。
 
「トロデーン城へ・・・ルーラ!
ギュウンと風のような音が鳴り、草原の草や葉たちは風にのって散る。
一瞬空を飛んだような感覚になった後、トロデーン城の門の前に着地していた。
 
 
 
「確か前に近道のドアの鍵を開けといたから、楽だねえ」
が魔物をビシバシとぶった押しながら、その鍵を開けたドアを開いた。
そのとき、丸い満月の月は空の真上に来ていた。
 
 
 
ガチャ、とドアが開く音が鳴る。
たちは図書館に入ると、窓枠の影が伸びた月の世界への扉を見つけた。
「行くよ!」
「はーい」
「さっさと行くわよ」
「ヘチマウリ!待ってるでがすよ!」
「・・・へいへい」
それぞれ返事すると、は扉を開くと、神秘的なあの世界へと来ていた。
 
円盤と円盤の足場も怯えることなく乗り越え、月の世界の奥の家へと歩を進める。
 
 
 
「おいヘチマウリー!なんちゃら突き突きのハープを持ってきたでがすよー」
ヤンガスがヘチマウリと言った瞬間、たちに背を向けていたイシュマウリは素早く振り返った。
振り返った時になびく青い髪の隙間から、イシュマウリがヤンガスを睨みつける目が見える。
「うおおうっっ・・・い、イシュマウリでがすよねっ」
その迫力はものすごかった。
 
 
 
「そうか、人の子たち。それが君たちの願いにふさわしい楽器なのだな」
イシュマウリはスッ、とハープを持つに手を差し伸べる。
はイシュマウリを少し不安気に見つめながら、ハープを渡した。
イシュマウリはハープをポロン、と一つ音を奏でた。
ドン○西・・・じゃなくてドン・モグーラの下手くそ加減とは全然違う。
 
「・・・あれ?私たち今、月の世界にいたんじゃ・・・」
辺りを見回すと、確かにさっきまでいた月の世界ではなく、古代船が眠る荒野のど真ん中だった。
夜なので星がキラキラと、美しく輝いていた。
 
「私が君たちの願いが集まる場所へ連れてきたのだ」
「そんなこともできるんだ・・・すごいですね」
が関心したように言うと、イシュマウリは気付かないくらい少しだけ微笑んだ。
「それでは今からこの船を動かす」
「え?どうやって・・・」
みんなが不思議に思った瞬間、イシュマウリはハープで音楽を奏で出した。
・・・だが、いくら弾いても何も変化は起こらない。
 
「・・・まさか!月影のハープでさえもこの願いを叶えることはできないのか・・・」
「ヒヒン!」
イシュマウリが驚いた顔をした。そう、ミーティアがイシュマウリの前に出たのだ。
「・・・そうか。馬の姿とあっても姫。姫の歌声も参加してくれるかい?」
「ヒヒン!」
ミーティアは嬉しそうに首を振った。
 
イシュマウリが奏でる綺麗なハープの音に、馬ではあるがミーティアの歌声。
 
「・・・なあ、
「何?ククール」
「あのさあ・・・ハープの音に馬の鳴き声ってハッキリ言って似合わねえよな・・・」
「・・・・・・・・・・・・・・・それを言っちゃだめだよ、ククール・・・」
男2人で残念そうな顔をしながら、イシュマウリとミーティアの姿を遠い目で見ていた。
 
 
荒野には水が溜まってくる。溺れるのかと必死になったが、イシュマウリ曰く幻想の水なので溺れないらしい。
水が溜まり、海まで流れるくらいの高さまでになった。
イシュマウリはハープの音をより一層大きく、流れるように弾いた。
すると驚くことに、船へと入りこめるように、ガラスのような階段が現れた。
 
「すっご・・・」
「今これ現実なんだよね・・・夢みたいだ」
で関心していると、横で悠々と泳ぐククールがいた。
「あれ・・・本当にカリスマとか呼ばれてたんだよね、修道院では・・・」
「・・・なんかもう体は大人、頭脳は子供☆って感じですねえ」
「ははは・・・じゃあ僕たちも行こっか」
うん、とは笑顔でうなずくと、と共にガラスの階段をゆっくり登りだした。
ヤンガスは嬉しそうに階段を勢いよくのぼっている。
 
「・・・あ、イシュマウリさん・・・」
が思い出したように、振り返った。だがもうそこには、イシュマウリの姿は見当たらなかった。
 
 
 
 
船が手に入った。
今、ドルマゲスを追い詰めてやる!
そう心に決めた5人プラス2匹の思いが、一致した瞬間だった。
 

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あとがき
やっと船手に入ったとこまで来た・・・!
ドルマゲス戦はまだまだ・・・ですよねえ・・・。

2008.12.11 UP