涙の宝石
その名の通り絵に表したような涙の形の、光り輝く宝石「ヴィーナスの涙」。たちは洞窟に眠るその宝石を手にし、姫様をゲルダから取り戻すためにゲルダの家へと足を急がせていた。
「おいゲルダ!いるんだろ、開けろ!」
「うるさいなあ。言われなくても出るっての!」 ヤンガスが、入り口のドアを今にも潰しそうな勢いで叩く。それに対してゲルダが耳を押さえながら、ドアを開けた。最初来た時に玄関にいた部下は、今はいないようである。
「お前が望んでた宝石、取ってきてやったぞ」 「へー・・・ほんとに取ってきたんだ」 ゲルダはハン、と言う。ヤンガスは歯を食いしばると、怒りを抑えた。
「・・・約束どおり、馬は返してもらうぞ」 「約束って何の話?私はただ考えるって言っただけだよ。それで今考えたのさ。その宝石は頂くけど馬は返さないよ」 「な、何だって!?」 ヤンガスは目を大きく見開いた。確かに、「考える」とゲルダは言っていた。みんなも驚いた顔をしている ヤンガスはいつもに使う「ですます調」ならぬ「ガスゲス調」が、ゲルダに対しては全く無い。どうやらガスやらゲスは、ヤンガスにとっては敬語のようである。
「お前なあっ・・・!それはいくらなんでも無理があるだろ!?約束してたんだからちゃんと返せよ!」 「嫌だって言ってるだろ?あの馬は私が買ったんだ。あんたたちのモンだろうがそんなの知らないよ。考えるって言っただろ」 「そ、そうだけど・・・」 悔しそうな表情を、ヤンガスは浮かべる。
「〜〜っ!頼む、この通りだ!」 そう言ったヤンガスは、地べたに這いつくばって、土下座した。 「!?」 そのヤンガスの行動に、皆は驚いた。一番びっくりしていたのは、ゲルダだった。
「アッシの大事な兄貴の馬なんだ。お願いだ、返してくれ」
「ちょ、待ってよ!」 ゲルダはアタフタしている。それでもヤンガスは頭を下げ続ける。
「も、もういいから!顔あげてよ」 「・・・ゲルダ」 悲しい表情をした顔を、ヤンガスは上げてゲルダに向ける。
「・・・大の男が土下座なんて、格好悪いよ」 「で、でも」 「いつものごとく、あんたのことからかっただけだよ!」 ゲルダはヤンガスの頬に手を当てると、少しだけ・・・ほんの少しだけ笑った。
「・・・ありがとな」 「フン。別に私がしおらしくなった訳じゃないからね!さっさと馬を持って帰りな。宝石はもらうよ」
ヤンガスは頷いて、ゲルダにヴィーナスの涙を渡した。ゲルダは一瞬、嬉しいような・・・悲しいような、顔していた。ビバ!ツンデレ★ゲルダーーー!!
「じゃあ・・・行くから。兄貴」 「もういいの?」 「いいんでがすよ。行きやしょう」 ヤンガスは、たちを出口へ促すと、家を出て行った。
「あいつ・・・あんな男だったけな はあ・・・とゲルダは揺りイスに座りながらため息をついた。すると天井を見上げ・・・暖炉の上にある写真に目を移した。
「あんたは変わったよ。ヤンガス」 微笑みながら見るゲルダの目は、写真に映る無邪気な笑顔の少年時代のヤンガスだった。
「あいよ、馬。お前らのだろ?」 ゲルダの部下が、馬を小屋から出してたちの元へ出した。は馬・・・ミーティアに近づいて、首辺りを抱きしめた。
「姫様・・・ごめんなさいっ・・・!あたしが目を離さなければよかった・・・!」
の目から涙がポロポロと落ちてゆく。その姿を、ゼシカたちは微笑ましく見ていた。の頭を、ポンポンとが叩く。はに、涙を浮かべながらもにっこりと笑った。
「ゲルダ様、お前らが洞窟に行った時にはもう馬を出しておく準備をしておけって言ってたんだぞ」 「えっ・・・」 「・・・ゲルダ様は優しい人だからな!ハッハッハッハッハーーーー!!!」 陽気な笑い声が辺りに響く。
「じゃあみんな、行こっか。ちょっと怖いけどパルミドに戻って、情報屋さんのとこに行こう」 ガラガラと、またいつものように馬車の音が後ろからついてくる。
「ゲルダ・・・またな」 ヤンガスは、みんなが気付かないくらい少しだけの時間、立ち止まって振り返り、ゲルダの家を見ていた。しばらく見た後、ヤンガスは走ってみんなの元へと戻っていった。
「姫様の回りを囲めーーーーーへーーー!」 の掛け声と共に、ゼシカやククールは姫様の回りを囲む。
「な、なんじゃい!今の掛け声はなんじゃい!」 「特にさいごの『へーーー!』とか、よくわからなかったわ」 「ぜ、ゼシカ!!いや!あれはノリでござんすよ!」 「ござんすよとか今時使うか?やっぱりってどっか抜けてるよな」 「く、ククさんにそんなこと言われたくないよ!」 「ククさんって誰」
また、賑やかなときが過ぎていく。ミーティアは、その光景を見ていて幸せに感じた。自分は、やっぱりこの居場所が好きだと。
「えーっと情報屋ってココだったわよね」 階段を登り、パルミドの町の真上にある通路を通り、また下に降りるとある情報屋の家。ノックをすると、最初に来た時は返事のなかった情報屋の声も、ちゃんと返ってきた。
「よかった、いたでがす。情報屋のおっさんー!ヤンガスでげすよー!」 「ヤンガスって自分もおっさんのクセに、自分より1個でも上だとおっさんって言いそうね」 「確かに。トロデ王だってそうだもんね。この情報屋の人だって、見た目は若いんだけど」 ゼシカとはヒソヒソと耳打ちで話をする。
「おお、ヤンガスさんじゃないですか。どうされましたか」 「昨日くらいにここを尋ねたんだがどうやらいなかったみたいでな。出直してきたんだ」 「ああ、それはすみません。昨日は情報収集に出かけてまして・・・。ところで、どんな情報が欲しいんですか?」 情報屋は申し訳なさそうな顔で、ヤンガスに聞く。
「今アッシは、この人たちと旅をしてるんでがす。それでその追ってる人の行方を知りたいんでがす。 「道化師・・・ドルマゲス・・・ですか。・・・確か西の大陸に行ったとか・・・残念ですがそれ以外情報はありませんね」 「・・・そうでがすか。でも西に行ったんでがすね!じゃあさっそく渡りやしょう兄貴!んじゃあなおっさん」 「ま、待ってください!」 情報屋はヤンガスを引き止めた。ヤンガスが振り返る。 「なんでがすか?」 「最近、魔物が強くなってきていると聞きます。定期船でさえ今では船を出していません」 「そ、そんな!」 ヤンガスはガックリと肩を落とした。情報屋も申し訳なさそうな顔をしている。が、しばらくすると情報屋は何かを思い出したようだ。
「そうだ!たしか崖の修復作業で通行禁止になっていた場所があります。確かポルトリンクに入らないで右に行けば・・・」 「右に行ったら何があるんでがすか?」 「確か、右に行けば古びた船が荒野の中にあると聞きます。それを動かせば・・・」 「わかりやした!ありがとおっさん!!!」
ヤンガスは明るい笑顔で情報屋の手を握って、ブンブン振り回した。
「んじゃあ早速ポルトリンクにルーラでがすよ!ククール!」 「へいへい。でもここじゃ天井にぶつかるぜ」 ククールはそう言うと、情報屋の家から出て行った。
「ありがとうございました、情報屋さん」
「いえいえ。私もあなたたちの旅を応援しています。頑張ってくださいね」 と情報屋はそんな会話を済ませると、はヤンガスに引っ張られるようにして出て行った。は入り口のドアで、情報屋の人に礼をすると、家を出た。
「みんな俺につかまったかー?」
「こんな奴絶対さわりたくなかったのに・・・何でルーラって触れないと一緒に飛べないのかしら」
ブツブツとゼシカは何か文句を行っている。
「いーじゃねーかいーじゃねーか。も捕まったか?」
「う、ん。おっけーでーす」
「んじゃ、行くぞ!ルーラ!」
キュン、という音が鳴ると、5人と2匹の姿は空高く舞い、ポルトリンクの町の前に足を着かせたのだった。
あとがき 2008.11.08 UP |