元山賊の色恋事情
ただっ広い草原の中に、ポツンと池に囲まれた1つの家。
シッシッ、と家の玄関の前で足止めをする男。
そう、ここはパルミドから北西に行ったところにある、ヤンガスの幼馴染・・・いや、悪友のゲルダの家だった。
「・・・いいよ。どうせその声はヤンガスだろ?通しな」
家の中から、女にしては少し低い声が聞こえた。恐らくゲルダという人なのだろう。
「よう、久しぶりだなゲルダ」
フン、とそっけないゲルダ。その態度に、ヤンガスはため息をつく。
「なあなあ」 ドスッ
「ばっかじゃない!?何考えてんですか!」
はククールの顎を、下からグーで殴った。結構いい音がした・・・ククールは苦しそうな声を出している。
まあ・・・確かに。 はあ・・・確かに色っぺーーーなーー!
「なあ、ゲルダ。お前、パルミドの闇商人の店で馬姫様・・・じゃなくて、白馬を買っただろ?」
ミーティアの毛並みは、いつもが手入れしていたから、キレイだったのだろう。 「あれはアッシの兄貴・・・アッシが尊敬するこのお方の大切な馬なんだ。返してほしい」
ヤンガスは額に少し汗を浮かばせながら、を手の平で指し示す。
「兄貴ねぇ・・・ふうーん・・・」
ガーン、とヤンガスはショックを受ける。ええ、それはもう。口をあんぐりと開けまして。
「ゲ・ゲルダ!お前なあ・・・!このボケ!カス!ナスビ!カボチャーーー!」
ゲルダがうっとうしそうに耳を塞ぐ。
その後ゲルダとヤンガスの口喧嘩はつづく。ゼシカはうんざりした目で見ていた。
「あーもう!わーかったよ!返してやるよ」
またヤンガスの顔が・・・口があんぐりと開けられている。あの口の中にハバネロ突っ込んでやりたいよ!
「あんたが昔、あたしと約束しても取ってこれなかったビーナスの涙。取ってこれたら返してやるのを考えてもいいよ」
ヤンガスは手をブンブンと振り回しながら、ゲルダにその先を言わせない。
「どうする?ムリだったらやめた方がいいじゃない?その変わり馬は返さないけどね」
そのヤンガスの兄貴という言葉に、ゲルダは少し体がピクリと動いた。
「兄貴、洞窟はこの家を出てもっと奥にあるでがす。・・・行きやすよ・・・ね?」
ガックシと、ヤンガスは肩を落とす。 はなんか少しだけボーッとしていて、気がついたらみんながいない事に気付き、出て行こうとした。
「ちょっと待ちなよ、あんた」
ゲルダに呼び止められ、振り向く。
はニッコリと笑顔で答えると、ゲルダも少しだけ、笑って そうかい と言った。
「呼び止めてすまない。じゃあ頑張って」
は少しだけ小首を傾げたが、また笑顔に戻って、家を出て行った。
「あの女の子・・・ただならない空気があるわ。おもしろい」
ゲルダはニヤリと笑うと、の顔を思い出していた。
玄関の前にいた部下は急ぎ足で、馬車のある小屋の中へ入っていった。
「・・・信じてるよ、ヤンガス。あたしはあんたを信じてるからね。もう2度と裏切られるなんて、ごめんだよ・・・」
「ゲルダさんとヤンガスって、どういう関係なの?何であんな険悪なわけ?」
洞窟までは短い距離だ。それまで歩いている時間に、ゼシカが疑問をヤンガスに聞いた。
「ゲルダは昔っから宝石に目がないでげす。それで昔も、アッシはゲルダにビーナスの涙を取る約束をしたんでげす」
ヤンガスは空を見つめながら、思い出に浸っている。
「ヤンガス、ここで合ってる?」
ヤンガスの昔話を聞いていると、いつの間にか洞窟に着いていた。 「早く持って帰って、姫様を助けてあげなくちゃ!」
そう言ったの目は真剣だった。 ・・・やっぱり、は姫様が好きなのかな・・・。 そう思った瞬間、ククールの手がの頭の上に、ポンと置かれた。 ありがとう と口パクでククールに伝えると、ククールはニカッと笑って、手をどけた。
洞窟の中は、入るとすぐに大きな宝箱が見える。そこが目的地なのに、それまで行くには時間がかかりそうだ。
「・・・この洞窟を造った人間の底意地の悪さが、よく分かるわね」
ゼシカが呆れたようにつぶやく。
ああもー、この柵飛び越えて宝箱まで行ったらいいじゃん!こういうとこだけ、ドラクエって律儀なんだからー!!
と、は思う。 子供のヤンガスが苦戦しただけもあってか、魔物は結構強かった。 すると、あるフロアにたどり着いた。
部屋の奥には石碑がある。
「天を・・・仰げ?」
ヤンガスが手を上にして平泳ぎのような手をしている。
「・・・それはヤンガス、天を泳いでるんだけど」
ククールが得意げに、上を見上げた。すると、「お」とヒトコトだけ発した。
「え?何?何かあるの?」
も見上げると、ポツンとひとつだけ、正方形の穴が。
「ほー・・・。何かわかったかも!」
は石像を動かそうとする。それを、も手伝う。 「ってば頭いいわね。私にはサッパリだわ」 デヘヘ、とはちょっとにやける。重たい石像を運びながら。 ストップ、との声で、手伝っていたも力を抜いた。 「あ、ありがと、。えーとヤンガスはそこでいいよ、もう動かさなくて大丈夫!」 ヤンガスが石像から手離して、みんなの固まる場所へ戻る。
「よし、作業完了。みんなもうわかった?」
みんな、何かを考えている顔をしている。は誰よりもわかったことに嬉しくなった。 「じゃあ正解言うね!この石像と石像が交わるタイル、きっと飛べるんだよ」
は縦に動く石像と、横に動く石像から直線を結んで、飛べるというタイルを指差した。
「私が指してる場所、縦に動く石像と横に動く石像からタイルに向かって伸ばしたら、交わるでしょ?これがカギ」
笑顔を見せると、はタイルの上に乗ってみせた。 その瞬間、の体は天を仰いだときに見つけた穴の中に向かって飛んだ。 「みんなも、早く来て!ここから階段を登ったら宝箱があるみたいだよ」
続々と、みんなが下から上の階へ足をつけて行く。
「すごいね。僕たちがいなきゃきっとムリだったよ」 がを関心のまなざしで見てくる。それが、にはとっても嬉しかった。 「じゃあ、開けるよ」
が、宝箱に手をかける。みんな頷いて、ゴクリとつばを飲んだ。
「・・・ウワアア!」 開けた瞬間、宝箱は魔物と化した。
「大丈夫、!?」 は本気で腰を抜かしてるようだ。
「私たち、闘ってくるから!ここで見てて。戻れそうだったら、来てね!でも無理しないで」
はを壁のあるところまで運んで、もたれさせた。優しい笑顔で笑いかけると、戦闘へ戻っていった。 ボオッと炎の音がしたのは、ゼシカのメラやメラミなどの、火の音。 は、腕が鳴った。
いや、実は少しダメージを与えられてしまっていた。それに関して腰が抜けたということでもある。 「!もう大丈夫なの?」 は笑う。それを見て、も笑う。が、すぐに戦闘に戻る。
「みんな頑張って!」
はベホマラーをかける。体力がみなぎっていく。
「行っくよー!」
の号令と共に、以外のみんなは魔物を次々と攻撃していく。 そして。
が、剣の回りに火のような光を放って、高く飛んだ。 何かを刺したような音がなる。その瞬間、魔物は砂のように消えていく。
「やった!・・・倒したのね、私たち!」
3人それぞれが嬉しそうに笑う。ククールはちょっと隠してる感じだけど。
無邪気に笑う彼女を見て、はその笑顔に癒された。 「んじゃ早くゲルダん所に行きやしょう。姫様に何かあったら大変でげすからね」
のリレミトで、みんなは洞窟から出た。
あとがき 2008.11.01 UP |