愛しき人
・・・・今一体、何が起きたのだろうか。
たちは恐る恐る、月の世界の奥にあった不思議な家に入ろうとしたのだが、それをが引き止めた。 「何で止めるのよ、」 たちにはよくわからなかった。みな首をかしげる。ヤンガスは首ないけどね。
「この建物の中には化け物がいる可能性もあるでしょ?ドア開けた瞬間襲ってくることだってありうるわ!」
はククールの目の前に人差し指を突き出した。その目は真剣。
・・・そして現在に至る。
が勢いよく足で蹴飛ばしたドアは押し戸。ドアの前に誰かいたみたいで、ドアに体が直撃してしまったようだ。
「うぐっ!ぎゃっふん!」 が苦笑しながらの頭をポンポンと叩く。 青く長い髪の女みたいな顔の男は、ムクッと起き上がった。少々服のほこりを手で払うと、たちの方を見た。
「あなた方は人の子の者ですね。私の名はイシュマウリ。月の世界の住人だ。人の子がここに来るのは久しいな・・・」
とヤンガスで、イシュマウリに色々ツッコむ。
そして最後にゼシカがヤンガスの足を蹴り、の頭を軽く叩かれ、その事態は済まされた。← 鼻血垂らしてる人のオーラに負ける私たちって・・・。
「ふふ・・・おもしろい方たちだ。私の世界へようこそ」
イシュマウリは微笑んで、たち一行に一礼をすると話しはじめる。 「いかなる願いが月影の窓を開いたのか・・・君たちの靴に聞いてみよう」
ポロン、とイシュマウリはハープを指で優しく撫でると、音から出た光たちがの靴を囲む。
「何でみんな逃げんのさ!!」
が足をジタバタさせていると、イシュマウリは笑いながら、怖くありませんよと言う。
「・・・ふんふん・・・アスカンタの国王が生きたまま死んだ者に会いたいと・・・」
5人はビックリした顔でイシュマウリを見る。
「・・・ああそうか、君たちにはまだ教えていなかったね。
イシュマウリはたちを見据えて言う。その言葉にみんな関心したように耳を傾けている。 「その夢・・・記憶を月の光は形にすることができる。
月の世界を出た瞬間、アスカンタの城の中にいた。
イシュマウリは月の世界の者。その世界に行った者しか会うことは許されない。
王座の間へつくと、パヴァン王は相変わらず王座に顔を伏せてすすり泣いている。
「嘆きに沈む者よ。かつてこの部屋に刻まれた面影の月の光のものと再び蘇らせよう・・・」
イシュマウリは、またハープに手をかける。ポロン、と独特の音が部屋に響く。
その音に、パヴァン王は王座から顔を上げる。
すると、その曲にのせて・・・パヴァン王の妻、シセルが現れた。
思い出の・・・シセルの声が、パヴァンの耳に届く。
「シセル!会いたかったよ・・・あれから2年。ずっと君の事ばかり考えていたんだ。君が死んでから」
思い出は今の言葉には答えてくれない。でも確かに。確かにパヴァンは、シセルが昔こんなことを言っていたのを覚えていた。
「ねえねえ聞いて!宿屋の犬に仔犬が産まれたのよ!私たちに名前をつけてほしいって!」
声のするほうへ振り向くと、王座に座るパヴァン王と、その後ろにシセルがいる。
「あれは・・・僕?そうだ、覚えてる。一昨年の春だ。ではこれは過去の記憶?」
「宿屋に仔犬が?・・・君は?何かいい名前を考えているんじゃないかい?」
そういうパヴァンに、シセルがパヴァンの頬を両手で挟み込むようにした。
「ばかね、パヴァン。あなたが決めた名前が一番いいに決まってるわ!私の王様。
シセルは笑ってパヴァンにそう言う。すると2人の過去の姿は消えた。
「そうだ、彼女はいつだってああして僕を励ましていてくれた」
先ほど消えた2人の姿は、また別の日として。
「私は本当は弱虫でダメな子だったの。いつもお母様に励まされてた。
シセルは瞳を閉じて、パヴァンにその言葉をひとつひとつ、大事そうに紡ぐ。
そう言って、今のパヴァンが記憶のシセルに触れようとすると、シセルの姿は消える。
「ねえ、テラスへ出ない?今日はいい天気ですもの。きっと風が気持ちいいわ、ね?」
パヴァンはシセルに手をひかれるまま、テラスへ出た。
外はもう、朝だった。
「ほら、あなたの国がすっかり見渡せるわ、パヴァン。アスカンタは美しい国ね」
シセルがだんだんと、朝日の中に紛れて消えていく。
でももうその姿はなくて・・・ただ光だけが。天に登っていく光だけが、シセルの名残を残していた。
「覚えてるよ。君が教えてくれたこと。すべて僕の胸の中に生きてる。
長い長い悪夢から、ようやく目が覚めたんだ」
城に上からかかる重苦しい黒幕が、城の内部に直されていく。
そして全ての幕が直されると、その場所から、4本の赤い幕が、城にかかった。
その幕を見て、悲しい表情をしていた城下町の人々は、抱き合ったり、背伸びしたり、子供は走り回ったり・・・。
「・・・ん・・・?」
パチ、とが目を覚ますと、城の中のある一室だった。 「おはようございます、お目覚めになられましたか?」
声のするほうを見ると、部屋の入り口にキラが立っていた。
「この隣のお食事場所で王様が待っておられます。ご料理でみなさんにご奉仕をしたいとのことです。
キラは深々と頭を下げると、部屋を出て行った。
「・・・パヴァン王様を待たしちゃいけないよな。みんなを起こさなくちゃ。
がベッドから立ち上がりながら、そう思っていた。
まず隣に寝ていたを起こす。
「、起きて。ほら起きてってば」 がいきなりベッドから起き上がった。の頭との頭がぶつかる。 「・・・っ!痛いよ〜!」 は乱れた髪の毛を、とりあえず手グシで直しながら言った。
「何?大丈夫?」
その言葉に、が反応した。 が夢で見た大好きな人は・・・誰なんだろう?
が心の中で、がいなくなったときのことを考えたら・・・悲しかった。
「・・・みんな起こそっか!何か用事があって起こしたんでしょ?」
そりゃ大変だー!とは呟くと、ヤンガスたちを起こし始めた。 その姿を、は見ていた。
愛しい人がこの世からいなくなったとき。
僕も王様みたいに、立ち直れないかもしれない。
それは本当に、寂しくて、悲しくて。
でも乗り越えなければいけない。
僕にはそれだけの勇気があるんだろうか?
そう考えたの頭には、の笑った顔が浮かんだ。
・・・?僕・・・今のこと考えてた?
「もー!早くみんな起こしてよー!ククールったら布団抱えて起きないんだけどー! の怒った顔。そして笑った顔。昨日の悲しい顔。そして困った顔。
そのどれもが愛しくて・・・。
「!」 「・・・呼んでみただけだよ」
が怒る。でもその後にちょっと笑って。
愛しかった。
だいぶ前からあった自分の気持ちに、鈍感な僕は全然気付かなかったけれど・・・
やっとわかったよ。僕の心の中の気持ち。秘密で、本当の、誰にも言えない、そして誰にも負けない気持ち。
が、スキってこと。
あとがき 2008.10.22 UP |