愛しき人


「でやあああああ!!」
ガンッ!
・・・・今一体、何が起きたのだろうか。
それは数分前に遡る
――――
 
たちは恐る恐る、月の世界の奥にあった不思議な家に入ろうとしたのだが、それをが引き止めた。
「何で止めるのよ、
「怯えながら静かに入ったってやられるだけよ!」
「「「「・・・ハイ?」」」」
たちにはよくわからなかった。みな首をかしげる。ヤンガスは首ないけどね。
「この建物の中には化け物がいる可能性もあるでしょ?ドア開けた瞬間襲ってくることだってありうるわ!」
「じゃあどうするってんだよ」
「簡単だ、ククール君!」
はククールの目の前に人差し指を突き出した。その目は真剣。
・・・そして現在に至る。
 
が勢いよく足で蹴飛ばしたドアは押し戸。ドアの前に誰かいたみたいで、ドアに体が直撃してしまったようだ。
の片足は真下へ。下にはドアにぶつかって倒れた青い髪の毛の人。
の片足はそのまま、その人の頭に落下した
 
うぐっ!ぎゃっふん!
「ウワアアすんませっ!・・・今ギャッフンて聞こえた・・・変人?
「・・・今の声は
のせいで出たんじゃないかな・・・。
初対面で色々失礼だね、
・・・まあ普通の人では、・・・ないだろうけど」
が苦笑しながらの頭をポンポンと叩く。
青く長い髪の女みたいな顔の男は、ムクッと起き上がった。少々服のほこりを手で払うと、たちの方を見た。
・・・タラーッと鼻から血が流れ出ている・・・。
 
「あなた方は人の子の者ですね。私の名はイシュマウリ。月の世界の住人だ。人の子がここに来るのは久しいな・・・」
「え?ワニの子?」
ヘチマウリ?」
とヤンガスで、イシュマウリに色々ツッコむ。
瞬間イシュマウリの顔がピクリと動く。その行動に皆、お口にチャックした。
そして最後にゼシカがヤンガスの足を蹴り、の頭を軽く叩かれ、その事態は済まされた。←
鼻血垂らしてる人のオーラに負ける私たちって・・・。

 
「ふふ・・・おもしろい方たちだ。私の世界へようこそ」
イシュマウリは微笑んで、たち一行に一礼をすると話しはじめる。
「いかなる願いが月影の窓を開いたのか・・・君たちの靴に聞いてみよう」
ポロン、とイシュマウリはハープを指で優しく撫でると、音から出た光たちがの靴を囲む。
咄嗟にみんな、
から遠ざかる。
 
「何でみんな逃げんのさ!!」
「えーだって・・・ねえ?」
僕の方が怖いよ!逃げないでよ!!
が足をジタバタさせていると、イシュマウリは笑いながら、怖くありませんよと言う。
いやその笑いが怖い!!
 
「・・・ふんふん・・・アスカンタの国王が生きたまま死んだ者に会いたいと・・・」
「「「「「!!!」」」」」
5人はビックリした顔でイシュマウリを見る。
 
「・・・ああそうか、君たちにはまだ教えていなかったね。
昼の光の元へ生きる子たち。記憶は人だけのものとお思いか?その服を家々も家具もこの空も大地も、
みな過ぎていく日々を覚えている。物言わぬ彼らはじっと抱えた思い出を夢見ながらまどろんでいるのだ」
イシュマウリはたちを見据えて言う。その言葉にみんな関心したように耳を傾けている。
 
「その夢・・・記憶を月の光は形にすることができる。
死んだ人間を生き返らせることは出来ないが、君たちの力にはなれるだろう。
さあ、私を城へ。嘆く王のもとへ連れていっておくれ」

そういうとイシュマウリは
たちの後ろについてくる。
たちは逃げるようにして(←)月の世界から出て行った。
 
 
月の世界を出た瞬間、アスカンタの城の中にいた。
いつも夜通し起きている兵が寝ている。キッチンにいるキラは机につっぷして寝ている。
イシュマウリは月の世界の者。その世界に行った者しか会うことは許されない。
だから、関係のない人は眠らされているのだろうか。そう思うとちょっと怖い。
 
 
王座の間へつくと、パヴァン王は相変わらず王座に顔を伏せてすすり泣いている。
「嘆きに沈む者よ。かつてこの部屋に刻まれた面影の月の光のものと再び蘇らせよう・・・」
イシュマウリは、またハープに手をかける。ポロン、と独特の音が部屋に響く。
その後、イシュマウリはハープである1つの曲を弾きだした。
その音に、パヴァン王は王座から顔を上げる。
その顔はもう、2年間泣きやんだこともないんではないかと疑いたくなるくらい、まぶたを腫らしていた。
 
 
すると、その曲にのせて・・・パヴァン王の妻、シセルが現れた。
シセルは王座の間を、パヴァンの周りを回るようにして、消えたり現れたりを繰り返す。
柱に隠れたり、くるくる回ってみたり・・・シセルは無邪気に動いてる。

「これは夢?幻?いや、違う・・・覚えている。これは・・・君は・・・」
「・・・したの?どうしたのあなた?」
思い出の・・・シセルの声が、パヴァンの耳に届く。
「シセル!会いたかったよ・・・あれから2年。ずっと君の事ばかり考えていたんだ。君が死んでから」

まだ今朝のおふれのことを気にしているの?大丈夫、あなたの判断は正しいわ。
あなたは優しすぎるのね。でも、時には厳しい判断も必要よ。王様なんですもの、ね?
あなたがしゃんとしなくちゃ。アスカンタはあなたの国なんだから
思い出は今の言葉には答えてくれない。でも確かに。確かにパヴァンは、シセルが昔こんなことを言っていたのを覚えていた。
 
ねえねえ聞いて!宿屋の犬に仔犬が産まれたのよ!私たちに名前をつけてほしいって!
声のするほうへ振り向くと、王座に座るパヴァン王と、その後ろにシセルがいる。
 
「あれは・・・僕?そうだ、覚えてる。一昨年の春だ。ではこれは過去の記憶?」
 
宿屋に仔犬が?・・・君は?何かいい名前を考えているんじゃないかい?
「私のは秘密!」
「どうして。君が考えたのならその名前の方がいいよ。教えてくれ」
「あなただってちゃんと思いついたんでしょ?仔犬の名前」
「でもそれじゃ君が・・・」
そういうパヴァンに、シセルがパヴァンの頬を両手で挟み込むようにした。
パヴァンの顔は幸せに満ち溢れた顔だ。今の姿からは考えられないくらい、笑っている。
 
「ばかね、パヴァン。あなたが決めた名前が一番いいに決まってるわ!私の王様。
自分の思う通りにしていいのよ。あなたは賢くて優しい人。私が考えたのはあなたが決めた名前にしようって、それだけよ?」
シセルは笑ってパヴァンにそう言う。すると2人の過去の姿は消えた。
 
「そうだ、彼女はいつだってああして僕を励ましていてくれた」
先ほど消えた2人の姿は、また別の日として。
今のパヴァンが立ちつくしていた王座の廊に、過去の2人・・・パヴァンとシセルが現れる。
過去のパヴァンの姿と、今のパヴァンの姿は、少しだけ重なる。

「シセル・・・君はどうして・・・どうして君はそんなに強いんだい?」
「お母様がいるからよ。」
「母上?だって君の母上は随分前に亡くなったと・・・」
 
「私は本当は弱虫でダメな子だったの。いつもお母様に励まされてた。
お母様が亡くなって悲しくて、さみしくて・・・でも、こう考えたの。
私が弱虫に戻ったらお母様は本当にいなくなってしまうわ。お母様が最初からいなかったのと同じになってしまうわ・・・って。
励まされた言葉、お母様が教えてくれたこと、その示す通りに頑張ろうって。
そうすれば私の中にお母様はいつまでも生きてるの、ずっと。」
 
シセルは瞳を閉じて、パヴァンにその言葉をひとつひとつ、大事そうに紡ぐ。

「シセル・・・僕は・・・僕も君のように・・・」
そう言って、今のパヴァンが記憶のシセルに触れようとすると、シセルの姿は消える。
そしてテラスへ出る階段の途中に、シセルが現れた。
「ねえ、テラスへ出ない?今日はいい天気ですもの。きっと風が気持ちいいわ、ね?」

昔のパヴァンは、幻のシセルの近くへ歩み寄る。それに合わせて、今のパヴァンも。

シセルが手を差し出すと、その手をパヴァンは握る。
その瞬間、過去のパヴァンと今のパヴァンの姿が、重なってひとつになった。
パヴァンはシセルに手をひかれるまま、テラスへ出た。
2人を、イシュマウリと
たちは急いで追いかける。
 
外はもう、朝だった。
 

「ほら、あなたの国がすっかり見渡せるわ、パヴァン。アスカンタは美しい国ね」
「ああ、そうだね・・・。シセル、そうだね」
「私の王様、みんなが笑って暮らせるように、あなたが・・・」
シセルがだんだんと、朝日の中に紛れて消えていく。
パヴァンは今にも泣きそうな顔で、幻のシセルを抱きかかえようとする。
でももうその姿はなくて・・・ただ光だけが。天に登っていく光だけが、シセルの名残を残していた。
パヴァンは瞳を閉じて、膝をついた。大事そうに、何かを抱きかかえるようにして、パヴァンは胸の前で腕を組んだ。
 
「覚えてるよ。君が教えてくれたこと。すべて僕の胸の中に生きてる。
すまない、シセル。やっと目が覚めた。ずっと心配かけてごめん。
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
長い長い悪夢から、ようやく目が覚めたんだ」
 
 
 
 
城に上からかかる重苦しい黒幕が、城の内部に直されていく。
バラバラなところから見ると、おそらく人がやっているのだろう。
そして全ての幕が直されると、その場所から、4本の赤い幕が、城にかかった。
その幕を見て、悲しい表情をしていた城下町の人々は、抱き合ったり、背伸びしたり、子供は走り回ったり・・・。
また、2年前と同じ日常に戻ったのだ。
 
 
 
「・・・ん・・・?」
パチ、とが目を覚ますと、城の中のある一室だった。
「おはようございます、お目覚めになられましたか?」
声のするほうを見ると、部屋の入り口にキラが立っていた。
「この隣のお食事場所で王様が待っておられます。ご料理でみなさんにご奉仕をしたいとのことです。
それでは私は王様のお部屋の掃除があるのでこれで失礼致します。それと・・・本当にありがとうございました!」
キラは深々と頭を下げると、部屋を出て行った。
 
「・・・パヴァン王様を待たしちゃいけないよな。みんなを起こさなくちゃ。
そういえば昨日イシュマウリさんいつの間にいなくなったんだろう・・・」
がベッドから立ち上がりながら、そう思っていた。
自分はねぼすけだから、みんなが寝ている間に起きれたことが少しだけうれしかった。
まず隣に寝ていたを起こす。
 
、起きて。ほら起きてってば」
「んー?ぼじょれぬーぼ?」
「それを言うならビジョレヌーボって意味わかんないから。ほら起きて!」
「ぬー・・・んー!」
がいきなりベッドから起き上がった。の頭との頭がぶつかる。
「・・・っ!痛いよ〜!」
「ワシも痛かった・・・んへえ、ごめんね。ちょっと悲しい夢見ちゃった・・・」
は乱れた髪の毛を、とりあえず手グシで直しながら言った。
「何?大丈夫?」
「・・・うん。大好きな人がいなくなる夢見ちゃった・・・。怖かった」
その言葉に、が反応した。
が夢で見た大好きな人は・・・誰なんだろう?
が心の中で、がいなくなったときのことを考えたら・・・悲しかった。
 
 
「・・・みんな起こそっか!何か用事があって起こしたんでしょ?」
「・・・え?ああ、うん!王様が、隣の部屋で待ってるんだって」
そりゃ大変だー!とは呟くと、ヤンガスたちを起こし始めた。
その姿を、は見ていた。
 
 
愛しい人がこの世からいなくなったとき。
僕も王様みたいに、立ち直れないかもしれない。
それは本当に、寂しくて、悲しくて。
でも乗り越えなければいけない。
僕にはそれだけの勇気があるんだろうか?
 
 
そう考えたの頭には、の笑った顔が浮かんだ。
 
・・・?僕・・・今のこと考えてた?
 
「もー!早くみんな起こしてよー!ククールったら布団抱えて起きないんだけどー!
あー!ヤンガスさっき起きたのにもっかい寝てる!二度寝するなコラ!」
の怒った顔。そして笑った顔。昨日の悲しい顔。そして困った顔。
そのどれもが愛しくて・・・。
 
 
!」
「ん?なあに?」
「・・・呼んでみただけだよ」
「えーーー!?何それ!」
が怒る。でもその後にちょっと笑って。
 
 
 
愛しかった。
 
だいぶ前からあった自分の気持ちに、鈍感な僕は全然気付かなかったけれど・・・
やっとわかったよ。僕の心の中の気持ち。秘密で、本当の、誰にも言えない、そして誰にも負けない気持ち。
 
 
 
 
 
 
 
 
 
が、スキってこと。
 
 
 

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あとがき
さっささささ最後自分で書いときながら萌えた!(何
シリアス対ギャグで言えば6対4って感じでしたね、よいバランスでし。
このシーンというか、イベントは本気で感動した。王妃様、いいことばっかり言うね。

2008.10.22 UP