三人目の犠牲者
「何でも橋が燃えてるそうよ」
「院長さまは無事かなあ・・・?」
おそらくドニの町から来た野次馬たちが、修道院に入る道を塞いでいる。
「すいません!道を開けてください!」
「み・・・道を〜・・・開〜け〜て〜・・・下さああ〜い・・・」
が必死で、たくさんの人の中から道を探している後ろで、はひょろひょろとした間抜けな声を出す。やっと修道院に入ることができた。中はガランとしていて、騎士団の人も修道士もいなかった。 「こんな大変な時にみんなドコにいるのよ?」 「たぶん燃えている橋の前にある庭だ!」 きっと橋が燃えているから、手を出せないのだろう。 「「「「早く行かなきゃ・・・!!」」」 橋の前にある庭に出ると予想通り、皆が群がっていた。 「あの火じゃ手も足もでねーな・・・」 「院長助ける以前に俺たちが死んじまうよ・・・」 そんな弱気な騎士団たちの声が、人だかりの中を飛び交っていた。
「バカじゃないの!?死ぬ死なないの前に考えることはないわけ!?あんた達、院長さんに育ててもらったんでしょ!?どうして命に変えてでも守ろうとしないのよ!!」 ゼシカが、群れの前に立ってそう叫んだ。死んだサーベルトを失った時のことを、ゼシカは思い出していた。
「私は・・・これ以上犠牲者を出したくないの・・・!みんな。私は・・・行くわ」 「「「えっ!?」」」 みんなが待ってという前に、ゼシカはもう燃え盛る火の中だった。 「待つでがすよゼシカ!」 ヤンガスはすぐさま、ゼシカの後を追う。 後ろのたくさんの人たちの方から、すげえとか熱くないのかとか、歓声の声が聞こえた。 熱いに決まってるじゃんあの2人の皮膚は鉄か。
「、僕たちも行こう!早くしないと橋が崩れるよ」 「・・・」 これから炎の中に飛び込むというのに、は冷静だった。は恐怖で、足がガクガクしている。だって大火傷で死んでしまうかもしれない。 そんなの真っ青な顔を見て、は優しくに話しかけた。 「大丈夫、僕がついてるよ。僕はこの腕まくりしてる部分を伸ばして通るから。はこれ、腕通さずに羽織って! そう言っては、青いシャツの腕まくりしている部分をはずした。いつも着ている、黄色いジャケットをに羽織らせた。
「行くよ!」 「う、うん!」 パッと、が手を繋いだ。 一瞬ドキッとしただが、はドンドン、の手を引いて火の中に入って行く。もうドキドキなんてしていられなかった。
「、!」 「ふひゃあっ!!熱かったあ!!」 少ししかない橋なのに、とても長く感じた。
「大丈夫?ケガないわね?」 「ん、なんとか。は?大丈夫?」 「う、うん!の服のおかげだよ」 がそっと、の黄色いジャケットを抱きしめた。もう着てもいいかなというの声に、うん、とは返事して、の手にのせた。
後方から声が聞こえた。ふりかえると、赤い服を着た・・・ククールがいた。
「ちっ、橋を燃やすとは・・・考えた野郎だな」 ククールがそうつぶやくと、火の中をククールは顔を庇いながら走った。たちのいる方へたどり着くと、たちがいたことに驚いて目を丸くした。
「なんだよ、お前たちいたのか」 「いちゃ悪いわけ?」 ゼシカが来たよこいつみたいな顔で言う。まあでも来てくれてまんざらでもなさそうな気が・・・するようなしないような・・・。
「じゃあ早速、乗り込むでがすよっ!・・・・あれ、開かねえでがす」 ヤンガスが勢いつけて扉のノブを回したが、開かないようだった。ヤンガスが押したり引いたり、リーザスの塔の原理で上に持ち上げたりしたが開かない。
「ヤロー、鍵かけてやがんな・・・やるぞ」 「えっ何するんですかククールさん!?」 「わかんねえか?みんなで突撃だよ。ドアに」
一瞬沈黙が流れる。状況を飲み込めたは、一度発狂して慌てふためく。
「何言ってるんですかククールさん!?突撃なんてそんな!弁償ですよ!!!」 「ったりめーだ。お前ドアの弁償と院長の命どっちが大切だと思ってんだ、あぁ?」
「(へー。こいつでもちゃんとした気持ちもってんじゃん!)」
ククールの言葉を聞いていたゼシカは、なんとなくそう思った。
「んじゃ行くぞ、用意はいいか?」
「「「「 おっけーい!! 」」」」
みんな顔を見合わせて、うなずきあった。
「「「「「 いっせーのーで!! 」」」」」
5人は一斉に、我武者羅にドアに突っ込んだ。木の扉は、5人の全体重に耐えられず潰れた。
ヤンガスは勢いがよすぎて奥までコロコロ転がっていく。 「え・・・援護か・・・助けてくれ・・・マルチェロ様がっ・・・団長が・・・危な・・・」 「しっかりして下さい!」
1階のフロアでは、騎士団の男2、3人が伸びていた。は1人ひとりにベホイミをかけていく。
「この上に・・・ドルマゲスがいるのね」
「うん・・・」
みんながみんな、2階へ続く階段を見つめる。2階は上がってすぐ院長の部屋だ。
「・・・行こう」
の掛け声と共に、みんなは覚悟した。そして・・・階段を登った。
「ぐはぁっ!!」 階段を登ってすぐの壁に、マルチェロが激突した。 「マルチェロさん!!!」 はマルチェロに駆け寄って、そっと体を起こさせた。 「大丈夫ですか?」 「ああ・・・すまないな・・・」
マルチェロはとても苦しそうな声を出しながら、を見る。
「クク・・・邪魔者が入りましたね・・・」
ドルマゲスが笑い声をあげる。な、何がおもしろいんだろうか・・・。
「やいドルマゲスやい!さっさとわしとミーティアを元の姿に戻さんか!」
「ちょ、王様!」
が抑えたが、トロデの怒りはおさまらにようだった。を振り払い、ドルマゲスの前で手をブンブン振って文句を言っている。
「おや、これはこれはトロデーン王国のトロデ王ではありませんか。また醜いお姿になられて・・・」 「誰のせいじゃ誰の!お主がやったんじゃろうが!!」
トロデはムキーッと怒りを撒き散らしている。
「おやおやそうでしたな。・・・邪魔者は排除するとしますかね」 そういうと、ドルマゲスは杖を上に高く掲げた。杖の先に、光が集まる。 は、嫌な予感がした。 「王様!!!!!」 「なんじゃい」 が叫んだ。ドルマゲスの杖の光が、トロデのすぐ後ろまで来ていた。そこに、一人の人影が、最後にの目に見えた。 「!」
もう遅かった。光がとまった瞬間。床に倒れていた人は・・・オディロ院長だった。
「お・・・オディ・・・オディロ・・・院長・・・さん・・・?」
の顔が今にも泣き出してしまいそうで・・・。目にたくさんの涙を溜め込んでいた。
「院長・・・!嘘でしょ?ねえ!」
それを見ていた以外の人たちの顔は、皆震えていた。の瞳からは、たくさんの涙を落としていた。
「院長さん!あなたみたいな・・・あなたみたいな優しい方が・・・何で・・・。何で死ななきゃいけないの?あなたは死ぬべきじゃないの・・・あなたは幸せになるべきなのに・・・!」
が、オディロ院長の体の上に崩れ落ちた。マルチェロとククールは、目を瞑った。
「あなたも邪魔ですね・・・魔力が放出されている。魔力だけ取り込んであとは殺すとしますか」
また同じように、ドルマゲスは杖の先に光を集めた。
「・・・うっ・・・ひっく・・・」
はそれに気付いていない。今も、オディロ院長の上で泣いている。
「!!!」 また、遅い。がそう思った瞬間だった。から、ドルマゲスと同じような光が放たれた。
「!?何だ・・・」
ドルマゲスは苦しそうだった。おそらくの魔力が、勝手に発動したのだ。『ドルマゲスを殺すように』と・・・。
「くっ・・・今回は・・・これで出て行くとします・・・みなさん・・・ごきげんよう・・・」
ドルマゲスは天窓の前まで浮かび上がった。天窓は、ドルマゲスの後ろで割れる。ドルマゲスは月をバックに、外へ消えていった。
「・・・行った・・・」
ドルマゲスが出て行った瞬間、の魔力の暴走は終わった。はまだ、泣いている。
「・・・」
そっとがオディロさんから体を起こすと、の目の色は・・・いつものように輝いていなかった。
「院長さんは・・・何にも悪くないの・・・何にもしてないの・・・。神様のような優しい・・・優しい笑顔で・・・優しい心の持ち主なだけなの・・・。何にも・・・」
はまるで子供のように泣いていた。
翌日、雨の中オディロ院長の葬式が行われた。泣き叫ぶ人もたくさんいた。皆に見守られる中、オディロ院長は、院長棟の後ろの墓石に埋葬された。
その後、マルチェロの自室に呼び出された。目を赤く腫らしたは、まだショックから立ち直っていないようだった。
「大丈夫、?」
「・・・うん。ごめんね」
「呼び出してすみませんね」
「いえ・・・何ですか?」
マルチェロは一枚の古ぼけた紙を取り出した後に、こう告げた。
「あなたたちを一度牢屋に入れてしまったことを深くお詫びします」
「やっと謝ったわね」 「・・・ゼシカ」
ゼシカがイヤミたっぷりに言う。マルチェロはさっき取り出した紙をたちに差し出した。
「こんなもので許してもらえるとは思っていませんが・・・。世界地図です。これからの旅に役立てていただければと思います。そしてククール」 マルチェロがククールの名を呼ぶと、ククールは部屋に入って来た。 「・・・何すか、団長」 「こいつを皆様の旅の一員にしてやってもらえませんかね」 「はっ?」
ククールの目は点だった。ええもうそれは。点でした。(何
当の本人も全然今まで知らなかったようだ。 「皆は自分の仕事を持っておる。お前は何もしとらんだろ」 「・・・つまり俺は用なしだと。そう言いたいわけか」 「それ以外何があるんだ」
その言葉に、ククールはカチンと来たようだった。
「っあー!わかりましたよ、この人らに着いてきゃいいんだろ。今までありがとーございました院長さん!
もう2度と会うことはねーだろうよ」 そう、マルチェロは団長から院長に昇格することが決定していた。 「じゃ、俺は下の玄関にいるから。さっさと来いよな?」 ククールはゼシカにウインクすると、マルチェロの自室を出て行った。ゼシカの顔が気持ち悪いと訴えて死んでる。 「さん・・・でしたか?誰よりも院長の死を悲しみ、騎士団を助け、私も助けてくださった・・・」 「えっ、いや、そんな・・・」
マルチェロは少し微笑んだ。
「ありがとうございます。それでは・・・これからも頑張ってください。ドルマゲスの情報をお待ちしてます」
「やーっぱりなんか苦手なのよね、あのククールって男」
「まあまあ」
マルチェロの部屋を出て、ククールの待つ玄関まで歩いていた4人。ゼシカがそう言ったので、が抑えた。
「みんなは黙ってられる?あんな男。そんなヤツの兄弟か何か?よね、ククールって。あんなのと旅なんて・・・」
「俺が何だって?」 「きゃあああっ」
いきなり背後から話しかけられたゼシカは、驚きまくった。
「いきなり話しかけないでよ!びっくりするでしょ!?バカじゃない!?」
「そんなキレんなよ。俺何かしたかよ?」 「あんたみたいな男が嫌いなのよ」 一瞬沈黙が流れた。ククール、相当ショックだったのだろうか? 「・・・まあこれからもよろしく頼むぜ?俺もオディロ院長の仇、討ってみせるぜ」 また新たな、ストーリーが始まる。 あとがき 2008.10.01 UP |