雄叫びと笑い

 

旧修道院の廃墟の出口は、院長のいる建物の裏側だった。

この頑固めがと言いたいばかりに動かない男二人の後ろ姿が、橋の上に見える。気付かれないように院長のいる建物の中へ入り込む。

入り口の扉を開けると、右手に階段があった。
駆け登った先には・・・

 

眠るオディロ院長と・・・

不気味な笑みを浮かべるドルマゲスの姿。

 

 

「ドルむぐ!「ゼシカ!」


名を叫ぼうとしたゼシカの口を、
が塞いだ。
ドルマゲスがドルムグという名前になってしまったが、気にしない。

ドルマゲスはたちのほうへ振り返ると、冷たく笑い、杖を振りかざして・・・姿を消した。

 

「〜〜〜っぷはあ!もう、何するのよ!逃げちゃったじゃないのよドルマゲス!!」

主語と述語が入れ替わってしまっているゼシカの言葉に、は静かに答えた。


「・・・ごめん。でも・・・今みたいに姿を消すような奴、きっと戦っている最中に逃げ出しちゃうよ」

「・・・でも・・・」

「ゼシカみたいに前向きなほうがいい事もわかってる。でも・・・国一つ滅ぼすことの出来る強力な魔力に、私たち・・・今の強さで勝つことができるのかな・・・とか・・・」

その言葉に、さすがのゼシカも黙りこんだ。

そうだ、まだドルマゲスを倒せる力になんて、たちは到底、追いついていないのだ。の言うことも一理あった。

 

 

「団長!こいつらですっ!」

階段付近に目を向けると、あの橋で通せんぼしていた2人と、マルチェロがいた。

「(しまった、建物に入り込むときに見られちゃったんだ!)」

 

 

「お前たちだな、院長を殺しにきた旅人とは?」

マルチェロの顔は怒りに満ちている。

「・・んぅ・・・?おお、どうした皆集まりおって」

ちょうど、院長が眠りから覚めた。

「院長!お体は大丈夫ですか!?こいつら、院長を殺そうとしていたんですよ!?」

マルチェロが急ぎ足で院長の眠るベッドの近くまで寄り、そう話した。

 

「・・・そうなのかい?私にはそんな風に見えんがの?」

院長は穏やかな顔でたちに笑いかける。


「院長!・・・とにかく、こいつらは地下牢獄へ連れていきます。さあ、ひっ捕らえろ!」

「「はっ!」」

マルチェロの命令と共に、とヤンガスが1人の男に捕まり、ゼシカとでもう1人とで腕を捕まれた。

 

「院長・・・もう少し自分のお身体を心配なさってください。あなたは狙われている身なのですよ?」

「そうか・・・マルチェロ、すまんなあ。でもあの方たちはそんなことをしようとする、輩には見えんかったが・・・」

「とにかくですよ!・・・警備を厳重にさせます」

そういうとマルチェロはオディロに敬礼をした。急いで階段を降りて、たちが連れて行かれた地下牢獄へ、足を急がせた。

 

 

「あのねぇ・・・?私たちはある人に頼まれて行っただけだって、何度言ったらわかってくれるのよ!」

「ある人ねえ・・・あなたたちがあの場にいて、院長のベッドの前にいただなんて、怪しすぎるではありませんか」

「勝手に決め付けないでよね!?院長の身が危ないから守りに行ったんじゃないの!」

「ほお・・・ならば証拠はあるのですか?」

「っ・・・」

証拠などなかった。ただ信じてもらない悔しさに、ゼシカは唇を、血が滲むまで噛み締めるだけだった。

 

「団長!外になんか・・・なんかもんのすごい怪しい魔物がいました!」

「なんじゃい!なんか怪しいとな!?ワシは王じゃぞ!?もうちょい優しく扱えんのか!」

騎士団の男の一人が、トロデを外で見かけたらしく捕まえてきたようだ。
まあ確かに、なんか怪しいけど・・・。
トロデは服の後をつかまれて宙に浮いて、ジタバタジタバタと離してもらおうとして暴れていた。


「その怪しい魔物も。お前らの仲間だな?」

「・・・はい、そうですけど?」

がマルチェロを睨みながら答えた。そのの顔にフッ、と皮肉に笑いかけた。

「あなたたちを野に放っておくのは危険ですね。牢獄に入れましょうか」

「なっ!」

「なんでがすって!?」

「ぐぬぬ・・・っ」

ゼシカは目を見開いて、ヤンガスは気持ちの悪い雄叫びをあげ、トロデは悔しそうにぐぬぬと怒りをこらえている。

 

 

乱暴に扱われるたち。

「それでは」

「ちょっと!待ってよ!」

ゼシカが牢屋の隙間から必死に叫ぶが、聞いてもくれなかった。

 

「なんでよ〜・・・濡れ衣だっていうのに」

「・・・証拠がないんじゃ、信じてくれるものも信じてくれないよな」

が重く口を開く。その言葉の後に、皆ため息をつく。

 

 

 

 

閉じ込められてから2日が経って、口数も少なくなってきた。ゼシカの必死の叫びも、もうなかった。

 

「あのマルチェロって人・・・私、許せないな」

がつぶやいた言葉に、みんなが耳を傾けた。


「こっちの言い分も聞かないでさ・・・勝手に決め付けてくれちゃって」

・・・?」

「あーっ!!!!もうなんか、考えてたらモーレツに腹たってきた・・・」

の顔が今までにないくらい怒っていた。

ー・・・?」

が呼びかけても、聞く耳をもたないは助走をつけ、牢屋の檻に向かって走り出した。

 

「おー、助けにきてやったぜブッ!!!!」

、ククールが来たこともわからず猪突猛進で檻を足蹴りした。
グニャリと牢屋は曲げられ、ひと一人が抜けられるような穴ができた。
の攻撃にククールはふっ飛ばされて壁に激突した。
 

「・・・えっ、あっ!ごごごごごめんなさいククールさん!私めちゃくちゃ大変なマネを・・・!?」

「いいのよこいつは今助けに来たとか言ってたけど、二日も放置されたんじゃねえ・・・?」

ククールは壁に激突したところを擦っていた。

 

「なんだよ、助けにきたってのに。感謝の気持ちはないのか?レディ」

まず、ありえないわね

キッパリと答えたゼシカに、まずありえないと書かれたでっかい石が、ククールの頭にのしかかったように見えた。よく漫画で見る光景なような気もするのだが・・・。

 

 

 

「ま、とにかくオレのせいでもあるんだし・・・隠れ出口まで連れてくぜ」

「当たり前よ。それくらいしてくれないと許さないわ」

ククールがああ言えば、ゼシカがこう言うといった感じで、二人のコンビはなかなか面白いものだった。

 

 


「こっちだ」

ククールを戦闘に並んで歩く。ククールが導いた先は、二日前にマルチェロと口論したあの場所に入るドアだった。少しドアを開けて覗くと、そこで騎士団の一人の男が、机にうつぶせて熟睡していた。

 

「二日くらいかかったのはさ、こいつを眠らせるためなんだ。眠り薬を一日中探して、次の日・・・昨日の晩御飯に眠り薬を盛っといたんだ」

「うわー・・・有難い話なんだけど・・・悪質ね・・・」

「よし、じゃあこっからはしゃべるなよ。起こしたら死刑だぞお前ら」

「ひえ〜」

が奇声をあげて、みんなが口を塞ぐ。自然に息も止まってしまう。

 

 

騎士団のいる部屋の奥には拷問室があった。

「・・・よし、もういいぜ」

「ぷはーっ!なんか息まで止めちゃったよ」

「僕も止めてた。苦しかったー!」

ククールの合図と共に、は息の出来る喜びを味わった。

 

「おい、そこのおっさん。この器具・・・アイアンメイデンの中に入ってみろ」

「なーにを言っとる。そんなもん入ったら死ぬだろーがイヤン!

服の襟を捕まれ、アイアンメイデンの中に放り込まれるトロデ。必死で出ようとするトロデを制して、アイアンメイデンの蓋を閉じた。

 

「ギュあああああああああぎゃわわわあああああああ!」

 

思わず耳を塞いでしまう四人。

「ちょっとククールさん!何してるの!?お、おおお王様がっ!」

「まあまあ、そう慌てるなって」

「ふつーに慌てますよ!?」

ワタワタと手をブンブン振り回すの顔もかなり青ざめている。

 

 

「・・・おお!や!抜け道があるぞい!!」

「え?抜け道?」
 

がビックリしたような顔で、アイアンメイデンの近くに行く。

 

「そ、あのおっさんの言うとおりにこのアイアンメイデンの中には抜け道があるんだ。正直に言えば、グロイから見ないために下に死体を落とす場所が出口ってわけなんだけどな。」

ククールは得意そうに話す。

「このスイッチを押したままだと開いて、離してから30秒間は出口は開いたままだ。オレが最後に出るから、早く行けよ」

そういうとククールはスイッチを押した。

アイアンメイデンの扉を開ける。所々血がこびりついているのが目につく。、ゼシカ、ヤンガスの順にアイアンメイデンの中にある抜け道に入っていく。次の瞬間にククールは急ぎ足でアイアンメイデンの中に入り込んで、30秒後、蓋は閉まった。

 

 

 

「ふー危なかったな」

「あんたが来るときに、蓋が閉まればいいのにと思ったわ」

「・・・おいおいそりゃないぜレディ」

ゼシカの毒舌にククールはちょっとショックを受けているような顔をしているが、呆れているようにも見えた。
外へ出る所まで、6人は歩いていく。

 

 

「王様、姫様はどうしましたか?」

「おお、ミーティアなら外で待たしたままなんじゃ。早く行ってやらんとな」

 

「そうだ、改めて自己紹介お願いしていいか?オレは知っての通り、ククールだ。」

「僕はだよ」

でーす」

「アッシはヤンガスでげす」

「・・・ゼシカよ」

「そうか、どうもあんがとな。あ、出口が見えてきたぜ」

 

微かに差し込む光をククールは指差す。外に出た先は、修道院の手前にある小さな小屋だった。そこにはミーティアが待っていた。


「ミーティアー!!寂しかったじゃろー・・・っ」

ミーティアを優しく撫でるトロデ。ミーティアも嬉しそうだった。

 

「じゃあオレは修道院に戻る。ありがとう・・・と、すまなかったな」

じゃ、といってククールは小屋を出た。そして、数秒後にククールの驚いた声が聞こえた。それはかなり大きくて。

 

「何よバカリスマ」

「あ・・・あれ・・・院長が!オディロ院長が危ない!!!」


ククールは今にも腰が抜けそうにしていたが、気を取り戻して修道院へと走って行った。
 

「あっ、ちょっと!何よ、もう。院長が危ないって・・・」

ゼシカが呼び止めても振り向かなかった。かなり必死だ。呆れたようにゼシカが、ククールの見ていた方向を見て、信じられない光景を目にした。

 

 

バン!

「みんな、修道院が燃えてるわ!!」

「「「ええっ!?」」」

「ううん、正式に言えば院長室へ行くための橋が燃やされてるわ!」

小屋の扉を勢いよく開けて、ゼシカは状況を伝えた。

 

 

急いでたちは、ククールの走って行った修道院へ急ぎ足で向かった。

 


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あとがき
主人公の出番すくねーーーーっ!!!
もっと計算してくれ私!
なんかゼシカが一番口数多かった気もします。

あああイラストだけでなく小説までゼシカ病が発症しちまっただー!←

2008.09.26  UP