恋心とマイペース
闇に消えた少女は、確か『井戸の近くにある家』だとか何とか言っていた。 「早く行ってやらんかいっ!あの子はお前らを待っておるんじゃぞっ!」 トロデはぷんすかとでも音がつきそうなくらい怒っている。まったく、美女のこととなるとうるさいおっさんだ。
「(早くどっかで休みたいな・・・)」 の足は、歩き回ったせいで限界に 近く痛かった。痛む度に自分にカツを何度も入れた。頑張らなきゃ。みんなに心配かけたくない。は自分の足が既に赤く腫れていることに、全く気づいていない。
少女の家に着き、家に入る。入ってすぐのところには、きれいな水晶玉がどでーん!と置かれていた。その水晶玉を通して見えるのは、小さな寝息を立てて居眠りこいている、さっきの少女だった。
「どうしよう・・・。起こすわけにはいかないよ・・・ねぇ?」 「そうだね・・・。また明日来ようか。今日はもう遅いわけだしね」 「でがすねっ!アッシはもうクタクタでがすよ・・・。」 よっしゃっ!やっと休める・・・!そして生まれて初めての、ドラクエ宿屋よおおおぉぉぉ・・・。 は感激していた。
たちはとりあえず今日は帰ることになり、ヤンガスが玄関に体を向けた時だった。
ギッシィィィィ!! 木造の床が、壊れるのではないかというくらいに音をたてた。ヤンガスの巨体が、ちょうど木が鳴るとこを踏んでしまったようだ。
やばい。あの女の子が起きた!一刻も宿屋に行って休みたかったに取ったら!
「(ヤンガスのばかっ!)」 「あっしが何かしやしたか?」 ひそひそ声でヤンガスに話したのに、ヤンガスは普通のボリュームでしゃべってしまった。おかげで、と少女がこちらを見ているではないか!
「あの・・・えと・・・本当に来てくださってありがとうございますっ!!」 「当たり前ですよ、約束したんだし!困ってる人は助けなきゃだしね」 にっこり、と話すに、少女はすこしポーッとしていたようには思えた。気のせいかな・・・いや、そう思いたい。何故だかわからないけどはなんだか心がモニョモニョしたので、二人のムードをかき消すようにの前に出て少女に問いかけた。
「お、お名前は何ていうんですか?」 「あっ、申し遅れてすみません。えっと・・・ユリマと言います。占い師の娘なんです」 占い師の・・・。そういえば、家も紫の布がかかっていたり少し部屋は薄暗い。第一、水晶玉があるんだから占い師の家だろう。
「アッシはヤンガスでげす!」 「わ、私はっていいます・・・!」 と自己紹介しても、は部屋の中を見渡していてなかなか名乗らない。ユリマはしびれを切らしたように、あの、と言った。 「そちらの・・・お、男の方の・・・お名前は・・・」 ユリマがそう言うと、はハッとしたように肩を一瞬ビクつかせた。
「あっごめんなさい!僕は、といいます」 「さん・・・ですか・・・。いい名前ですね!」 ユリマはニッコリと頬を赤くして笑った。もそれに対してほほ笑み、ありがとう とつぶやいた。
ズキン。
「それでは・・・お話しますね 」 ユリマは深刻そうな顔で、静かに話しだした。
「うちの父は、どんな占いでも当たるという高名な占い師でした。ですが、ここ 最近ぱたりと占いが当たらなくなってしまったんです。そのせいか、父は最近ピリピリしていて・・・夜遅くまで毎日酒場に行って・・・」
バタンッ! ユリマの話の途中で、家の玄関が開く音がした。目を向けると、そこには酒場にいたアフロおっさん・・・ではなく、ルイネロがいた。
「ユリマ!家に人は入れるなと言っただろう!」 「・・・ごめんなさい。でもこの人たちは・・・」 「だってもさってもごぼうもないわ!・・・ん?お前らはさっきの酒場の奴らじゃな・・・? ・・・とにかく!ユリマ。さっさと客人には引き取ってもらえよ」 だってもさってもごぼう・・・!?は内心突っ込みたくなった。それにしても嫌な感じの人だ。
ルイネロは足音を大きくしながら二階に上がっていった。しばらくするといびきが聞こえた。 ・・・寝るの 早ッッ!!
「すいません・・・あんな父で。でも、本当は優しい人なんです・・・」 ユリマは少し悲しい顔をしながら、つぶやいた。
「あなたたち旅のご一行様が、私の夢に出て来たという時・・・。滝の洞窟の奥に、水晶玉があると言っていました。私が思うに、その水晶玉はかつて父のものなんじゃないかと思うんです」 「え?どうしてでがすか?」 「この水晶は・・・ただの水晶なんじゃないかと・・・つまり、すり替えられたものだと思うんです」
青く輝くユリマ曰く偽水晶を軽くなでるユリマ。しばらく 沈黙が流れ、は聞いた。
「それは・・・誰にすり替えられたかとかはわかりますか?」 「・・・すみません。それは・・・わからないです」
するとユリマが切り出した。 「あの、 そこでお願いなんです!滝の洞窟の奥に眠る水晶をとり戻してくれませんか・・・?あそこは魔物が出るから、何も出来ない私が行っても死んでしまうだけだし・・・。旅の方たちなら魔物と戦うことに慣れていますでしょう?」 心配そうに聞くユリマを見て、ヤンガスもに聞く。 「どうするでがすか、兄貴?」 「うん、いいと思うよ。はどう?大丈夫?」 もに振り返って聞いてみる。 「いいよ!困ってる人は助けられない、だもんね?」 「ふふ・・・そうだね!」 2人は笑い合った。
「本当にありがとうございます、助かりますわ!滝の洞窟はこの町の南門から出て、南に行けばあります。町から出ると見えるのでわかると思います。こんなことが夢でわかるなんて、私ってやっぱり占い師の娘ですよねっ!」
「洞窟ってどんななのかなあ?」 ここは宿屋の一室。部屋が空いてなかったため、 性別関係なく同じ部屋だ。 「の世界には洞窟はないの?」 が不思議そうに聞いてきたので、は首を振る。 「ううん、ちゃんと洞窟はあるよ。入ったことがないだけ。でもこの世界みたいな魔物が出る怖いイメージとかじゃなくて、遺産とか、観光する場所になってるの」 がそう言うと、とヤンガスは関心したように目を見開く。
「じゃあの世界には魔物はどこにいるの?!」 「いないよ!魔法とかだって、伝説だしおとぎ話で言われてるだけなの」 「アッシらには想像できない世界でがすね・・・」 ヤンガスは少し困ったような顔をしている。こっちでは魔物がいるのが当たり前なので、考えられないのだろう。
「みんな、そろそろ寝ようよ。明日は早いわけだし」 「でがすね〜おやすみでがすっ!・・・グーーーー」 うわあ。おやすみ3秒ってまさにこれだ・・・!!と思うだった。
「ヤ、ヤンガス寝るの早っ!・・・じゃあ僕らも寝ようか、」 「うん!おやすみ、」 「おやすみ・・・」
しばらくして、のかすかな寝息が聞こえた。疲れてたのかな。
「・・・よし、寝たな・・・!」 は2人が眠りについたことを確信し、部屋の窓からテラスにでた。テラスはきれいな満月の月明りに照らされていて、神秘的だった。 「よかったあ・・・。建物に入るとき靴を脱ぐ風習の世界じゃなくて・・・」 靴を脱いでたら完全にバレてただろう。
は靴を脱ぐと、そこには真っ赤に腫れあがったの足があった。
「ほんと痛かった・・・。これどうしたら治るかなあ・・・」 は足を見ながらため息をついた。
ため息をつけば幸せが逃げるっていうから、友達がため息をついた時、いつもが空気を吸っていたりした。自分でも何をそんなことしてるんだ、バカだなって思う。 でも今、そんな風に吸って笑いあってくれる人はいないし、第一今こんな世界にいることが不幸だ。これ以上不幸になるっていったら死ぬんではないだろうか。
「ドラクエの世界なら・・・できるのかな・・・?・・・ホイミ!」 ぱぁっと、緑色した淡い光がの足を優しく包んだ。たちまちの足の痛みは引いた。まだ腫れは引かなかったけど。
「うわっ!すご・・・。この世界ではやっぱり効くんだ・・・。元の世界ではいくら唱えても効かなかったのに・・・」 唱えてたのか。さん。
「でもよかった、効いて。・・・・・・なんか歌いたくなってきたなー!」 はすぐ後ろにある部屋のベッドで仲間たちが寝ていることを忘れて、歌った。夜の草原に歌声が響き渡る。 その歌声は、草原で眠る魔物や動物、夜行性の動物や魔物たち、多くの自然の生き物たちの耳にも届いた。 そして近くで眠るヤンガスの夢に、亜麻色のツインテールの少女の夢に、キザな銀髪男の夢に。 そしてオレンジのバンダナをした青年の夢にも届いた。
暗闇の中・・・女の子・・・誰? いい笑顔で歌ってる。とても悲しい歌だけど、でもとても澄みきった綺麗な声で。
見たことある少女だけれど、思い出せない。僕が近付く程、遠ざかる。誰なんだ・・・?そう思った時だった。
ハッと目が覚めて、とっさに近くで歌声が聞こえた。
”人は1人じゃ生きていけない だから怖くて1人にはなれない あたり前のようだから あたり前に傷つけ あたり前に傷ついてしまうけど 人を愛したり守りたいって思えるのなら それは心の優しい証拠なんだ 君は独りぼっちじゃない 僕がいるから 君が大好きだから それは僕にとって確かな思いで 君のそばにずっといるよ って そう思えるんだ ”
「―─・・・?」 ゆっくり、振りかえる。たちまち顔を赤くして、びっくりした、と言って笑う。
「びっくりしたよ本当に!誰にも聞かれてないと思って歌ってたから・・・」 「すごく綺麗な声だったよ。歌うまいんだね、。今の曲はの世界の歌?」 そうが聞くと、はすこし考えて、 「ううん、私が作ったんだよ。・・・まあ私の世界の歌っていうのかな?」 「へぇっ!作曲?すごいね・・・」 ありがと、とは照れながら笑った。 「・・・その足・・・」 「えっ?あっ!!!」 はさっと足をもう片足に隠すけど、その片足も腫れてるのではっきり言って隠せてない。
「・・・それどうしたの」 「えーっとそのですね、 ・・・・・・蚊に刺されただけだよ。」 「ウソつくなっ!」 「う゛う゛う゛〜っ・・・あの・・・えと・・・、歩きすぎでといいますでしょうか足が痛かったんです・・・」 はうつむき、ゆっくりと話し出した。
「何で言わなかったんだよ?」 「・・・迷惑かけたくなかった・・・から・・・。ごめんなさい・・・」 少し泣きそうになるを、はポンポンと頭を撫でた。
「・・・はのペースでいいんだよ?」 「・・・え?」 「僕たちのことなんて気にしなくてもいいから。つらかったら言っていいんだよ?」
だめだ。この人は。人を泣かすことのできる力を持ってる。一緒にいて安心させる、すっごい力が。 月明りに照らされながら微笑むに、は気付いた。 今日のあの胸の痛みは、きっと人生で初めてのユリマちゃんへの嫉妬。そんでもって。
私は、人生で初めて、この人に恋をしました。
あとがき 今回のお気に入りは、ヤンガスが木のなるところを踏んだとこですねw それでは次の小説でまた会いましょう(・∀・) 2008.05.29 UP |