「ねぇエイト。ククール知らない?」
「知らないよー」
我がパーティーのリーダーは、宿屋を抜け出した仲間のことを気にも留めやしない。
そりゃ確かにあの男、いっつもどこかほっつき歩いてるけどさ。
「あいつ…自分の誕生日くらい、仲間と過ごしなさいよね…」
手に持っていた小さな彼へのプレゼントを包む布が、少し悲しげな色に見えた気がした
とりあえずプレゼントだけでも渡したくて、ゼシカは宿を出た。
どうせあいつがいるのは酒場だろう。初めて出会った時みたいに荒くれの男とかにイカサマしてなきゃいいけど。
「えーっと…」
酒場に足を踏み入れたと同時に、お酒の臭いがゼシカの鼻についた。
この臭い苦手かも…何時間も入り浸れる人の気が知れないわ、なんて思いながらククールの姿を探す。
するとカウンターに、赤い服を来た銀髪の男が見えた。「あっ、ククー「えーっ、ククール好きな人いないのーっ!?」
死角になって見えなかったククールの隣にいたのは、酒場のバニーガール。
何でか咄嗟に、ゼシカは体を隠してしまった。でも、話は嫌っていうほどに聞こえてきてしまう。「うん、まーな」
「そうなの〜?じゃああたしを彼女にしないっ?」
「はは、いつかな」
そう言ってウィンクしてみせるククールに、女の子はキャーキャー黄色い声をあげる。
…バッカみたい。何が考えとく、よ。
あの女の子が言った言葉なんて、そんなの単なる冗談に決まってるじゃない。そんなの、ただの冗談に…。
「あ…れ……?」
なんでか、頬に熱い滴が伝っているのがわかった。
「や、だ…私なんで…」
涙は、全くといっていいほど、ゼシカの意識に反して止まってくれない。
ゼシカは酒場を急いで出て、その場に座り込んでしまった。夜の冷たい風は、熱くなった顔を冷やしてくれる。
「…っ、ひ…く…っ」
これは何の涙?喜びの涙?怒りの涙?哀しみの涙?悔しさの涙?
私は…あの女の子に焼きもちを焼いているの?
「そんなこと…あるわけないわよね…」
言葉ではそう呟いても、心は違っていた。
ククールの好きな人は私。彼女になるのも私。
どこかでそんな馬鹿なこと考えていたから…。
今私は、あの子よりも劣勢にいる。
だってあの子は、約束してしまったんだもの。彼女になるって。
涙はこれ以上、こぼれるのを待ってくれそうにない
勝手に決めつけていた、あなたの想い人
お題配布元:確かに恋だった
ククゼシですー。ククールって一日に何回告白されてんだろ