おかしな薬

 

私の名前は、18歳。元の世界では日本出身だったんだけど・・・。
トリップして今日、私に幾度目かの悲劇が襲いかかったのです・・・。

 

 

 

「あーあ・・・誰かさんのせいで今日は野宿なのね・・・」

「おまっ・・・!誰かさんって・・・誰だ?」

オメーだよ

ゼシカの冷たい突っ込みが夜の森に響いた。ククールの武器を無理矢理買ったことにより宿屋に泊まるお金すらなく、今日は野宿。火を炊いて食事をする今は、仲間でワイワイと話す楽しい時間でもあった。

 

「まぁまぁゼシカそう怒んなって。えーっと・・・あれ?」

ククールはゼシカに何か渡そうと思ったのか、ゼシカの怒りを押さえるように宥めながら道具袋を探った後に首を傾げた。

「どうしたの?」

「これなんだ?」

が尋ねると、ククールは道具袋の中から何か透明の袋に包まれた白い粉を取り出した。

 

「・・・何これ?」

いや俺がそれを聞いてんだけどな。何だ?麻薬とかか?」

とククールが不思議そうな顔をしている横で、ゼシカが驚いたような目で見ていた。

 

「あんたそれ、おかしな薬じゃない!どこで手に入れたのよ?」

「え?わかんねぇけど・・・」

そのククールの言葉の瞬間、ゼシカは立ち上がってククールの持っていたおかしな薬の袋を掴んだ。

「これ人間が使ったら危ないらしいから捨てましょ。ほら貸して」

「え、何で?何かに使えるかもしれないから置いておこうぜ。錬金とかさ」

そう言ってもゼシカは袋から手を離さない。

 

「何言ってるのよ 。もし誰かが飲んだりしちゃったらどうするの?何が起こるかわからないじゃない」

「大丈夫だよ、何も起こらねぇって!」

最初はその程度の言い合いが、いつの間にか大きな喧嘩に。ゼシカはククールに掴みかかり、ククールはそれを阻止しようと、ゼシカが掴むおかしな薬の袋からゼシカの手を離させようとする。

 

「ちょ、ちょっと2人もやめなよー! 」

「みっともねぇでがす・・・」

が必死に仲裁に入るもきかない。もうこう言うときは放っておくしか・・・。

 

ビリリッ!!

「「あっっ・・・!!」」

おかしな薬を包んだ透明の袋は、見事に真っ二つに引き裂かれた。そして中にあった粉末は、すぐ横にいたに思いっ切り振りかかった。

 

「・・・・・・」

「ご、ごめん!大丈夫!?」

心配そうな表情で聞いてくれるゼシカに、は「大丈夫だよ」と言いたかった。・・・しかし。

 

「あ〜ゼシカ。大丈夫やで!全然!もうピンピンやわ!何もないでこれ!!」

「・・・え?」

ゼシカの目が点になるのがわかった。いや、ゼシカだけじゃない。後ろにいたククー ルも、横にいたやヤンガスでさえ。時が止まったのかと思うくらい沈黙がその場に流れた。

 

「え〜・・・っと・・・?」

「何や?」

いや私が聞きたいわよ。何その話し方」

「? なんやろ・・・?あれっ!?なんかウチ話し方おかしくない!?」

自問自答するを、一同は唖然とした表情で見ていた。

 

 

が・・・関西弁に・・・なんかなっちゃった・・・」

バターン!

「ああっ兄貴ぃ〜!」

なぜか気絶で倒れてしまったを、支えるように抱きかかえるヤンガス。

 

「と、とにかく今日はもう寝ましょ!明日になればきっと直ってるわよ」

「そ、そうだよ、日が経てばきっと大丈夫だ」

みんながなんとなく励ましてくれている。なんだか余計にそれがにとっては痛々しい。今まで自分は普通に(普通か?)標準語だったのに、 いきなり関西弁だなんておかしすぎる!しかも頑張って標準語で話そうにも、口が勝手に関西弁で話してしまう。・・・どうしたものか。

 

「大丈夫やって自分!みんなの言う通り明日になったら多分またいつも通りに直っとるわ!」

・・・自分への励ましの言葉も、慣れないはずの関西弁だった。

 

 

 

翌日。

は一番に目を覚ましてしまい、仲間と会話をしようにもできない。するとトロデ王は起きていたので、話してみる。

「おはようございます王様!おはようサマー!」

「おうか、早いのぅ。というか、いつになくハイテンションじゃのぅ」

トロデ王は朗らかに笑いながら、姫様のお世話をする。今のところ関西弁じゃないし、きっと直ったんだ!

 

「いや、なんもないんです王様!実はなんか昨日へんなことあって・・・自分なんでか、バリバリの関西弁でしゃべっとったんですよ〜アッハッハ!」

「いやお主、現在進行形で関西弁じゃよ

「アッハッハッハッハ〜〜、王様ってば一体何言ってんですか!その口にモンスター図鑑でもねじり込んでやろうか! ・・・え?」

うっそぉぉぉ!
本当だ!関西弁だ!!

 

「あばばば・・・ありえへん! なんで!?何でなんですか王様おひサマー!」

「なんかもうテンションも関西になっとるわ。ってか関西って何?」

そういやここドラクエの世界でした!は思いながらも、自分の中で何か異変が起こっていることはわかっていた。 どうしよう。いや、いっそこのままこのキャラで行ってみようか。

そんな風に思っていると、みんな続々と起き始めた。

 

「あらおはよう。あっ!話し方は直った?」

「うぅ〜・・・ゼシカぁ、直らへんかったわ・・・」

マジでか

マジです

 

悲しい会話をしていると、ククールも入ってきた。

、まじで直んねぇのか?」

「うん・・・どうしたらええんかな・・・」

が少しだけ悲しそうな顔をすると、が横からククールを飛び蹴りして話に入ってきた。

 

「何言ってるんだよ!君は関西弁じゃなかったじゃないか!なんか違和感が・・・違和感があるから!ってか関西って何?どこ?」

「どうでもいいけど、今俺を飛び蹴りする必要がどこにあったのか?」

あーだこーだと話した結果、の直すことに専念するという意見に1票、のこのままのキャラでいってみるという意見に6票。姫様も足を上げて参加した。

 

「なんで!なんでみんな・・・」

「だって・・・ねぇ?なんか今ののキャラもなかなかいいし」

「癖になってる話し方は直せねぇからな」

「きっといずれは直るでがすよ。どうせ薬の症状でがすし」

みんなはの意見に賛成していた。は不服そう。はそんな光景を見て、何かを考えるような顔をしながら黙っていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「っんー!やっぱ潮風は気持ちええなぁ!」

が大きく伸びをしながらそう言う。ついついあくびが出て涙がじわーっと滲み出てくる。

 

 

一行は船に乗っていた。世界地図には載っていない島があるとかないとかいうロマンティックな噂を聞き付けたので、その島を探しているのだった。

 

「・・・ねぇ。本当にいいの?」

「え?何が?」

の横に立ってそう聞いてきた。二人は海の水平線を見つめる。

 

「だって・・・やっぱりさ・・・。なんだか、僕の知ってるらしくないんだ」

「・・・そうかな・・・・・・」

が眩しそうに太陽を仰いだ後、に視線を移した。

 

「・・・・・・やっぱり僕・・・いつものの方が」

「だーいじょうぶやって!だってコレってたぶんおかしな薬の症状やろ?・・・いつかは直るよ」

ね、と笑ったに、は渋々了解するしかなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「・・・で、なんでまた今日も野宿なの?」

「仕方ないだろー金ねぇんだから・・・」

地図に載っていない島というのを無事見つけた達は、島を散策していた。が、何も見つからない。宝も何も。小さな島だったのであっと言う間に一周してしまった。けっきょくお金も体力もないので、今日もまた野宿になってしまった。

 

 

 

「じゃあとりあえず僕は薪拾いに行ってくるね」

「アッシも行くでがす!」

「じゃあ私は船にいる王様たち呼んでくるわ」

「俺も行くよ」

結果的になんか一人になってしまったは、今日野宿する場所の見張りをしていた。仲間たちの荷物があるからだ。

 

「ま、でもここの魔物結構弱かったから一人でも大丈夫やと思うけど・・・。・・・!?」

荷物整理をしていると、ドシン、ドシンと背後から大きな足音が聞こえてくる。

 

「(や、ヤンガスかな・・・薪拾い終わったのかな・・・!?いやいやいや幾ら何でもヤンガスの足音の大きさあんな巨大じゃないだろ・・・!)」

自分に心の中で色々言い聞かせる。その間に足音はだんだんと近づいてくる。の額に冷や汗が溢れ出て、青ざめていく。

 

 

「う、うわーーははは・・・」

あまりの恐怖に声も出ない。

後ろを振り返ると、立っていたのはキガンテスとボストロール。ドラクエ歴代の中でも最強な魔物が2匹もいる。1人で倒せるわけがない。

 

「ど・・・どうしましょうかねぇ・・・」

死んでしまう。みんな・・・・・・!早く・・・早く帰ってきて!!

でも人の気配は一向にしない。そらそうだ、今さっき行ったばかりだ。
魔物は2匹共に、だんだんと
に近づいてくる。

の背後には湖しかない。

 

「・・・どうせ死ぬならこの話し方治してと話したかったな・・・」

わたしも死ぬか、そう決心した

 

魔物が、こんぼうを振りかぶった、その瞬間。

 

 

バッシャーーン!!

は湖に飛び込んだ。

 

 

「ボゴボゴッ・・・ブァガブベラッ(やっぱり・・・まだ死ねないっ)」

水の中で泡を口から出しながらそう言ったは、水面へとあがった。
魔物は
を見失ったのか、2匹で森の中へ消えていった。

 

 

「は・・・はぁー・・・助かった・・・・・・へっくしょんっ」

あれ・・・風邪ひいたかな・・・。

 

とりあえず水から上がったは、服を絞る。

「うぅ・・・寒・・・早く乾かさないとー・・・」

・・・あれ?今関西弁じゃなかった?
関西弁なら「早く乾かさんと・・・」だよねっ!!あ、今もやんなじゃなかった!!

いや・・・でも気のせいだな。うん。

 

 

 

「あらっ!?ってばどうしたのよそんなズブ濡れで!!」

ゼシカは自分の荷物からバスタオルを取り出して、にかぶせた。

 

「な、なんか魔物が襲ってきちゃって・・・湖に逃げたらこんなことに・・・」

「あーあー風邪ひいちゃうわよ。早く拭いて!」

ゼシカってなんか、お母さんみたい。

 

「・・・あれ?そういや・・・」

「ん?なあに?」

「・・・関西弁じゃなくなってない?」

「・・・やっぱり!?ブエックショイ!!」

おじさんのようなくしゃみをしたは、確実に風邪を引いてしまったようだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

「いっやーほんと、治ってよかった!!」

関西弁が治ったことに一番嬉しそうなのはだった。

「治ったっていっても風邪は治ってないわよ」

「いや・・・そうだけど・・・よかったよ、うん」

「ふえ・・・ふえ・・・ふえっくしょん!!」

くしゃみを連発するを心配しながらは焚き火の火を強める。

 

「・・・つまりおかしな薬は怖い代物だってわかったな。これからは気をつけよーっと・・・ん?」

ククールが道具袋を探ると、おかしな薬の粉末が。

 

 

「「「「「 うわァァァァァァァァァァァァーッッ!! 」」」」」

5人は急いで薬を湖へと放り投げたのだった。


あとがき
なにこのしょうもない小説ゥゥゥゥ!
いや、管理人自身関西人なんで・・・ちょっとやらせたかっただけなんです。
ごめんなさい。

2009.08.08 UP