Creamy & Bitter & Spicy


ーーー!」
「・・・
、・・・なあに?」
珍しい花を道端で見つけたゼシカとは、急いでの名を呼んだ。
は最近お疲れ気味なのか、呼び掛けても反応が薄い。
時間が空けばすぐに深い眠りに落ちており、
に構ってくれない。
だが、のその寝顔は整った顔立ちで、とてもきれいだ。
それを覗き見して笑顔をこぼす
にとっちゃ、好都合である。

「ほらほら見て、この花!なんかもうバーッとなってパアーっとなってポッて感じですごくない!?よう分からんけど!」
効果音しかない全くもって理解不能な花の説明をしながらはしゃぎまくるを横目に、
は眠そうに目をこすって、返事したのかも分からないくらい小さな声で「うん」と言った。
「・・・大丈夫?」
「・・・うん」
「休む?みんなに言ってあげるよ?」
「・・・別に、いいよ」
ずっとこんな感じだ。疲れているのもわかるが、もう少しくらい・・・は何か言ってほしかった。
、仕方ないわよ。だいぶ疲れてるみたいだし、ここは少しそっとしておきましょ?」
「うん・・・そうだよね!私の考えばっかり押しつけたって仕方ないよね」
の肩を軽く叩いて話すゼシカに、はそう答えた。
そんな中でも
はもう寝てるんじゃないかと疑うくらい、目を細くして歩いていた。
いつか転ぶんじゃないかと、
は気が気じゃなかった。
 
 
 
 
 
夜、一行は宿についた。
───────そして事件は起きたのだった・・・。
 
「うー・・・。私の好きなものばっかり!エビチリも食べたいしミニハンバーグも・・・あ!コロッケも!
何食べよう!?あああああ!もう、迷うぞよ・・・」
今日の宿での晩ご飯は、バイキング形式だった。
は目の前に並ぶ色んな食材に目を輝かせながら、どれを食べようかと迷っている。
とりあえず1つのお皿に料理を盛り、テーブルに置きに来ると、が椅子に座って眠そうにしていた。
は食べ物取りにいかないの?取ってきてあげよっか?」
「・・・いいよ、自分で行くから・・・」
眠そうな顔でそう言うが、笑顔を忘れない
そう?と
は首を傾げて問いかけたが、彼はまた うん と言った。
 
は2皿目の料理を皿に盛ると、またテーブルに置いた。
とりあえずこれまでにして、(まだまだ食べる気だけど)何か飲み物を入れようとした。
、ドリンク入れて来てあげるよ」
「・・・うん・・・」
「何がいい?お茶とかソーダもあるよ!」
「・・・何でもいい・・・」
「・・・そっ・・・か・・・。うん、わかった。じゃあソーダにしてもいい?」
「・・・・・・うん」
テーブルのイスに座りながら、今にも寝そうな
は気のないの声にちょっと悲しみながら、
コップを持って自分のコーラと
のソーダを入れに行こうとしたときだった。
 
「・・・おい。眠いのは分かるけどさ・・・もうちょっと違う言葉も使って話したらどうだ?
ずっとうんうんって、それじゃ
が可哀想だろ。ずっとお前の体気遣ってんのに」
ククールがそう言うとの体が、一瞬ぴくりと動いた。

「・・・ククールには、関係ないよ」
いつものなら言いそうにない言葉だ。憎まれ口ばかりのククールだが、さっきの言葉はごもっともである。
「あ?何か言ったか?」
「・・・だから、ククールには関係ないって言ってんの!!」
バン、と机を叩いて立ち上がる
疲れで気が立っているのだろうか、これといって短気ではない
が怒るのは珍しい。

「何だよ。俺そんな怒るようなこと言ったかよ?」
「だって・・・ククールには僕の頑張りとかつらさとか、何も知らない!」
「ああ知らないね。そんなものお前自身しか知らねえことじゃねえかよ」
ククールもと同様、机を叩いて立ち上がる。
それと同時に、テーブルにある食器の振動する音が鳴る。

「だって何も知らないのにククールがそんなこと言うから!」 「俺は別に当たり前のこと言っただけじゃねえのか?そんなの俺が知るわけないだろ」
二人の口論はこんな感じで続く。
ククールはともかく、滅多に声を荒げない
がこんなに怒っていることにはびっくりした。
いつもの優しい
じゃない・・・。
彼は何に対してそんなに怒っているのだろう。ククールの言うことに何か怒ることがあったのだろうか・・・。
 
 
二人の口喧嘩をとうとう見兼ねたゼシカはゆっくりと静かに立ち上がって、
まだ口をつけていないコップに入った水を、2人にかけた。
「いい加減にしなさいよ2人共!そんなに口論したって何も片付かないでしょ!?」
ゼシカがそういうと、2人は水で少し塗れながらもゼシカを向いた。
 
、気が立ってるからってククールに当たらないで。
そんなに眠くて
に心配させるくらい迷惑掛けるんなら、ご飯なんて食べないでもう寝ればいいじゃない!
別にそんな無理しなくたっていいんだから。だいたいねえ、リーダーが毎日そんなんじゃこっちだって困るんだからね!」
ゼシカが強張った表情で、一気に溜めてた愚痴を吐き捨てた。
丸いテーブルに3人は立ち上がって、ゼシカは
を、ククールはを、はククールを睨んでいる。
とヤンガスは座ったまま、立ち上がる3人を見上げる。
目の間で火花の飛び散る様を見て、どうしようとおどおどしている。
 
「・・・ごめん、みんな。頭冷やして来る・・・。おやすみ」
「・・・あ、兄貴」
そう言い残すとは部屋に戻って行ってしまった。
がレストランを出て行く後ろ姿を、追いかけることなくただ見つめていることしか出来なかった。

喧嘩のせいで客に注目を浴びたゼシカたちは、そのまま食事を続けているのは何だか気がひけた・・・。
 
 
 
 
次の日、相変わらず仲直りのないとククール。。お互い顔を背け合い、一言も交わそうとしない。
そんな2人を、トロデーン親子であるトロデとミーティアは、不思議な目で見つめていた。
「なんじゃい、あの2人は。喧嘩でもしたのか?」
「昨日宿で色々あったんですよ・・・」
「ほんっと、見ててムカつくわ。さっさと仲直りしちゃえばいいのに意地なんて張っちゃってさ!」
効果音にプンスカと付きそうなくらい、ゼシカは腕を組んで怒っている。
確かに旅のリーダーである
・・・いや、誰であっても、仲間の一人と喧嘩しただけでもチームワークが乱れる。
ということは戦闘などの色んな面で不利になる。例えばだけどその人に対して回復魔法を使わないとか。
昨日まで目もまともに開けていなかっただが、今日は目の下クマを作りながらも目はちゃんと開けていた。
その目の行き先は、自分に顔を向けずに後ろを向くククールだった。
 
「・・・のぅ、
「・・・何ですか、王様」
主君であろうトロデ王が声を掛けても、この返事の仕方だ。
相当疲れと喧嘩の二つで気が立っているのだろう。
ククールはのことを完全無視だが、他の人に八つ当たりはしていない。
ゼシカも
の行動に怒っていて、パーティーは今最悪な状態だ・・・。
トロデとミーティア、そしてヤンガスとは、そんな3人をハラハラとした気持ちで見つめるしかなかった。
 
 
その夜、宿での食事の席にも出ないを無視で、ゼシカとククールは食べ始める。
ヤンガスも相当お腹を空かせていたのか、兄貴分のを待ちながらしばらく我慢していたのだが、食べ始めた。

「・・・私、
のとこ行ってくるよ」
「やめとけよ。いくら
だって、気が立ってる今のあいつだったら、取り返しつかねえ事故でも怒るかもしんねえぞ?」
「そうよ!だいたい仲間に八つ当たりするなんて最低よ」
ぶすっとした表情でククールとゼシカは言った。
「・・・でも私、やっぱり放っておけないもん。ご飯食べなきゃちゃんと体も動かせないし・・・」
そう言うとはゼシカたちの言うことも聞かずに、まだ手のつけていない自分の食事の乗ったトレイを手にすると、
のいる部屋へと向かった。
 
「はあ・・・には何言ってもかなわねえな・・・」
の出て行った方向を見つめて、ククールはため息をついた。
 
 
・・・?」
呼んでも、の返事はなかった。だが、中からものすごい音が聞こえた。慌てているようなそんな感じ。
「入るよ・・・?」
小さく声を出してそう言うと、はトレイから食べ物を落とさないように持ちながら、静かにドアを開けた。
?」
か・・・。何?」
まだ、目の下にクマを作っている。いつもの優しいの本当の笑顔じゃなかったけど、
とりあえず笑った顔を見ることが出来た
は何だか嬉しかった。
 
「・・・あ、えと・・・ご飯持ってきたの。ただでさえ寝てないと思うから、ちゃんと食べて栄養くらいは摂らなきゃと思って」
そう言ってはどこか申し訳なさそうに、食事をに差し出した。
は少し困ったような顔をした。
「・・・ごめん。食欲なくて・・・食べる気がしないから」
「で、でも・・・」
が悲しそうな顔をすると、はぎょっとした顔になった。
「ご、ごごごめん!食べる、食べるから!」
そういうとから食事の乗ったトレイを受け取った。
 
「おいしい?」
「・・・うん」
あまり食欲のないは、味を感じることが出来なかった。
が、
を目前にすると悲しませてはいけないと思って、そう言うしかなかった。
 
 
「あのさ、さっき部屋入ろうとしたときにものすごい音がしたんだけど・・・何してたの?」
「えっ!?え、いや・・・その」
は赤い顔になってブツブツと何か言っている。
「なあに〜?何かエッチなものでも見てたんじゃないの?もそういう年だもんね〜」
ジトーっとした目でを見つめる。
はそんなわけないだろ!と語勢を強くして言うと、俯いた。
 
「・・・ん?」
は微かに、ベッド元にある電気スタンドの台の引き出しが開いていることに気付いた。
こんなところはあまり使わないので、少し気になった。
 
ドゥアーーーー!
「え!?何!?」
恥ずかしそうに俯いていたは、の奇声に顔を上げた。
そこには、その引き出しを開けている
がいた。
「うあああああああああああああ!!!!!!!!!!何で勝手に開けてるの!!!???」
「え?だってちょっと開いてたから気になって・・・」
きょとんとした目でを見つめた後、は引き出しの中に視線を移した。
そこには、編み物をするときに使う棒に絡む、ピンク色と少し薄い赤色の2色の毛糸が使われた、編み物。
 
「・・・何、これ?」
「えっ?い、いや何と言われても・・・」
はまたゴニョゴニョと下を向く。
「何言ってるか聞こえないよ!これは何ですかー!?」
興味深々に問い続けるに、はとうとう暴露した。
 
「えっと・・・その、最近寒くなってきたっていうか、が寒そうにしてたから・・・
ま、マママママフラーを、編んでプレゼントしようと思って!でも僕、あ、編み物なんてしたことないし!
旅のお金からマフラー買うお金なんてそんなのないし・・・。
だからこの間泊まった時に、宿のおばさんにいらない毛糸もらって・・・
ずっとみんなにバレないように、みんなが寝てる間に編んでたんだ・・・」
恥ずかしそうに打ち明けるに、は心の底から笑った。
 
「・・・なーんだ・・・それでは寝不足だったわけね・・・」
はあ、とため息をつくと、は謝った。
「じゃあ私のせいでとククールは喧嘩しちゃったわけなんだ。・・・なんか悪いことしちゃったね、私」
「ち、違うよ!何か昨日の僕絶対おかしかったんだよ!何であんなにキレてたのかわからないし・・・。
でもなんか今更引き下がれないっていうか・・・」
今日のは何か弱気だ。言葉の最後を濁らせて下を向いてしまう。
 
「・・・謝りにいこう?みんなに八つ当たりしちゃったことも。ゼシカとククールのコンビはご立腹だから」
「・・・やっぱり・・・?そうだよね・・・」
ふかーいため息をつくとは脱力していた。
 
「私そんな弱気なは嫌いだよ。いつも真っ直ぐ向いてるがいい」
「えっ・・・う、うう・・・」
「ほらちゃんとしてくれないと、私もゼシカみたいに怒るよ!?・・・一緒についていくから」
ね、とはニコッと笑った。
はそのの笑顔に、心を決めた。
 
 
 
 
 
 
 
 
「・・・というわけで、さ。のこと許してあげてほしいの」
がそういうと、腕を組んだククールと仁王立ちのゼシカに、は頭を下げた。
「ほんっとうにごめん!これには深い訳があって・・・」
「深い訳って何だよ」
ギロッ、とを睨むククールに、は一瞬たじろいだ。
「えっ・・・と・・・その訳は・・・い、言えないんだけ「言わないと許さないわよ、私」
の言葉に割って入るゼシカは、やっぱり普段の性格と変わらず強気だ。
 
「そ、その・・・夜中にのためにあ、マフラーを編んでて・・・それで寝不足で・・・」
本当に申し訳なさそうに俯くが2人にそう言うと、ククールとゼシカは目を大きく開いてパチクリとさせた。
 
「「・・・え?のために?」」
「・・・う?う、ん・・・」
しばらく沈黙が続く。ゼシカとククールの顔はまるでのっぺらぼうかと疑いたくなるくらい、下を向いていて顔が見えない。
「・・・え?あ、あの・・・おふたりさーん」
がそう言うと、ゼシカはいきなりの肩をガシッと掴んだ。
 
グッジョブ!!
「はい!!??」
驚いた顔をするは、2歩、3歩と一歩ずつ下がる。
が、ゼシカが肩を掴んでいるためにゼシカも一緒についてくる。
 
「あんたっ・・・女の子のために眠らず慣れない編み物をしてあげるなんて・・・!まるでドラマ!ドラマじゃないの!
ゼシカは感動といった顔で、の肩から手を離して腕を組んで、何かを考えている。
、お前も男だな・・・残念ながら負けたぜ。俺は睡眠の時間割いてまで、出来ない編み物なんてしねーぜ」
ククールもまたゼシカと同様に感動した様子で、の顔を見つめる。
 
「え?え?何?何でそんなに態度が変わるの?」
「「もちろん、
のこと応援してるからに決まってるじゃない!!」」
呆気にとられた顔では3人のやりとりを見ていた。
何て単純なんだこのコンビは。
 
「もうそんな理由だったならとっとと言ってくれればよかったのに。普通に許すわよ!」
「ああ、そうだ!俺は感動した!感動をありがとう

「え?な、何かわからないけど許してくれてありがとう・・・」
は恐れる思いで2人の前に謝りにきたというのに、何なんだこの変な空気は・・・。
 
と、いうことで、皆さん仲良く元通りになったのです。
 
 
 
仲間っていう関係は、時々苦かったり、辛かったりするけど・・・
でも最後には、甘くなってクリーミー。
 
 
 
 
「そういや何でみんな、僕が編み物苦手なの知ってたの?言った覚えないんだけど・・・」
「「そりゃあもう、がそんな家庭的なこと出来るわけないって思ってるから★」」
 
はこの2人にギガデインでも喰らわせてやろうかというくらい殺意を抱いたのは、この時くらいだった。


あとがき
短編第4回目!
今回は真面目に小説書いてみようと(いつも真面目ですが 笑)思い、ギャグ少なめにしました。
・・・が、私の小説ってギャグあっても面白くないのに、もっと面白くねえ!←汗

喧嘩とかするだろーなーと思ってサッと下書きしたら結構よかったので、UPしてみました。
結構ながめになってしまったのですが、改行だから!!!(黙
でもまあ短編だから・・・いいよね。そういうことにしておこうよ私。←

2009.01.17 UP