お兄ちゃんとの約束
「ねぇ」 「ん?なぁに?」 「私たちって・・・兄妹なの?」 私は草原の上でと二人で寝転びながらそう聞いた。爽やかな風が、私たちの頬をかすめ、前髪をさらっていった。
この世界に来てから少しの頃、まだビアンカに会ってすぐ後だった。サンタローズへと来て、だいぶ村の人やサンチョさんとも話すようになり、パパスさんのことを一人のお父さんとも思えるようになった。
「なんでまた?」 「私・・・のことね、お兄ちゃんって思えないの」 そりゃそうだ。私はとは違う世界の人。だから、パパスお父さんともとも、血なんて繋がってない。サンタローズも、私の故郷なんかじゃない。
「それって・・・僕がお兄ちゃんらしくないってことなのかな・・・!?」 ものすごい悩んだ顔ではまだ6歳にして眉間に皺を寄せてうなった。
「ちち、違うの!そういうんじゃなくて・・・!」 言えば、おかしい子だと思われるだろう。私はとは違う世界の人なんだ、だなんて。
「うーん・・・あ、そうだ!じゃあ、僕のことお兄ちゃんって呼んで?」 「・・・・・・お、にいちゃん?」 「そう。そしたらも僕をお兄ちゃんって、思えるかも!」 すごい良い事思い付いたみたいな笑顔でニッコーと笑いかけてくるに、私も自然に笑顔になった。
「!・・・じゃなくて・・・お兄ちゃん!」 「なぁに!?」 「なんでもなーい!」 私がお兄ちゃんと呼ぶとはすごく嬉しそうに振り返る。それが面白くて私はに用もないのにお兄ちゃんと呼んでみた。
「どうしたんだのやつ?をお兄ちゃんだなんて・・・いやまぁそうなんだが」 「なんでもお嬢様にそう呼んでくれとぼっちゃまから言ったそうですよ」 そうかぁとサンチョさんの説明になっとくしたパパスお父さんは、ハッハッハッ と何だか嬉しそうに笑っていた。
「お兄ちゃん」 「・・・なぁに?」 また用もないのに呼んでいるじゃないのかと警戒している。・・・面白い。
「あのね・・・大好きだよ!」 「え?」 子供なら、素直に言えるから言ってみる。ってかわいすぎる。兄弟がいなかった私だから、お兄ちゃんが出来て嬉しい。こんな風に誰かとじゃれ合える日が、来るなんて。
「のこと、おにいちゃんって思えるようになったよ」 「本当!?」 「うん」 私が笑うと、は嬉しそうにはにかんだ。 本当はまだ・・・のことをお兄ちゃんとは思えなかった。は家族じゃなくて、一人の男の子だと。
次の日、また外に遊びに出た私と。今日は村の端にある森で遊んでいた。
「あ!ボールっ」 が蹴り上げてしまったボールが、大きく弧を描いて飛んでいった。私は急いでボールが飛んでいった方向に駆けていく。
「ん〜と・・・このへんに飛んでいったような・・・?」 「〜っ、あった〜?」 「こっちにはないよ〜・・・」 おかしいな〜?こっちに来たはずなのに・・・。そう思いながら辺りを見渡していた私は、すっかり足元の集中力がなかった。
「んー・・・きゃあぁあ!?」 「!?」 急な傾斜というかもう崖!コレ崖だよォォという場所があり、私はそこで足を踏み外し落下しそうになった。私は思わず目を瞑り、歯を食いしばって痛さに耐えようとした、けど。
「・・・あ、れ・・・?」 目を開けると、視界は宙に浮いていた。膝小僧辺りにすりむいた感の痛さはあるが、どこかを打ったとかの痛みがない。不思議に思った私は、上を見上げた。
・・・が、必死に私の右腕を掴んで引き上げようとしていたのだった。 「・・・?」 「待ってて!今お兄ちゃんが助けるから!」
なんで・・・?なんで血なんて繋がってないのに。なんでそんなに私のことを必死に助けてくれるの…?私のこと、家族だって、大切だって思ってくれてるの?
ずず、と体が上へと動き、のおかげで危機一髪、落下せずに済んだ。
「よかった〜!、怪我はな・・・・・・い・・・?」 私は、いつのまにか無意識にに抱きついていた。なんでかな、涙が溢れたんだ。
「ごめんねっ・・・ごめんね・・・!」 の服に私の涙がたくさん落ちた。それもごめんね。
「怖かったよ・・・っ・・・ひっく、ありがとう・・・っ」 を抱き締める力が、次第に強くなった。
「・・・、大丈夫?怪我は?」 「うん、たいしたことないよ・・・」 私はハハ、と笑って首を横に振った。はホイミをしてくれ、私の頬に流れる涙を小さな小さな指で拭ってくれた。
「が・・・が危険なら、僕が守るよ。だから、心配しないで」 「・・・!」 「まりんを、死なせたりしない」 の顔はすごく真剣で。とても6歳とまだ幼い子だとは思えない。すごく男らしくて、私は一瞬ドキっとした。
「ありがとう・・・・・・ちゃん・・・」 「?」 「おにいちゃん・・・!」 私はにまた抱きついて、たくさん泣いた。は私の頭を撫でてくれて 、抱き返してくれる。
「僕のこと、もうって呼んでいいからね」 「え・・・?」 「元々は僕のこと、ちゃんとお兄ちゃんとして見てもらいたくてそう言ってって 言っただけだったし!・・・がもう、お兄ちゃんって思ってくれてるなら、もうお兄ちゃんってよばなくてもいいよ?」 は私の顔を見てそう言った。
「・・・わかった。ねぇ」 「ん?なぁに?」 「私たちって、兄妹だよね?」 「・・・うん!」 私は聞くと、は力強くうなずいた。
「あのね、私・・・のこと、もうちゃんとお兄ちゃんって思ってるから・・・だから・・・」 「?」 「私のこと、ちゃんと妹って・・・思ってね?」 私は心配そうな顔での顔を覗きこんだ。私のその言葉に、は不思議そうな顔をした。
「あたりまえだよ。 もうちゃんと、思ってる」 は私の頭を、抱き締めてくれた。
「・・・約束だからね」 「・・・もちろん」 二人のちっちゃい小指が、絡まりあった。
「あ、虹・・・!」 森を抜けると、虹が空にかかっていた。雨も降ってなかったのに・・・。 「、きれいだね!」 「うん!」
虹なんて、いつから見てないかな。空を見上げることなんてなかったから・・・。
「ねぇ」 「んー?」 「僕、のこと、大好きだよ」 「!」 のいきなりの言葉に、私は目を見開いた。
「うん・・・私ものこと、好きだよ」 嬉しい。いいな、子供って。自分の気持ちを、こんなにも素直に伝えられるんだ。
「じゃーんっ」 は後ろに回していた手を、私の前に差し出した。その手には、ガーベラ。
「これ・・・どうしたの?」 「さっきいた森で見つけたんだ。にあげる!」 無理矢理と言うくらい花を私に押し付けたは、帰ろうと元気よく言って走り出した。私も慌てて追いかけた。 二人で、笑い合いながら、ガーベラを握り締めて。
「ん・・・?」
目が覚めたら、どこかの宿。なんだ、子どもの時の夢か。そういえばこんなことあったなぁ・・・。
・・・へのこの気持ちなんて、ただの家族愛的なものだと思ってた。まさかそれが・・・なぁ。 今になっては、あの時のように軽々と言っていた言葉が、言えない。 は、あの時と同じ気持ちでいてくれてるのかな。それともまだ・・・妹のままなの?
「・・・私とって、血は繋がってないけど兄妹だよね、お父さん。だって、・・・お兄ちゃんと、約束したもん」 一人そう呟いて、私はふふふと微笑んだ。 ・・・・・・端から見れば変な人。
そんなことを寝起きに考えていた、奴隷から逃げてまだ少しのオラクルベリーの朝でした。 あとがき 2009.09.23 UP |